PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

アルトバ文具店(営業中)

関連キャラクター:古木・文

赫赫
「なあ、此処は手紙の代筆は頼めるか」
 左手に薔薇の花束を抱えた男が、意を決したという様に文に聲を掛けて右手に持った便箋を差し出して来た。其れは此の『アルトバ文具店』の品揃えの中では程々に高価な代物である。
「大切な方へのお手紙ですか?」
「ああ、俺は昔から文字がからっきし下手でね。花束は買った、身請けするだけの金も貯めた。後はプロポーズをしてハッピーエンドって訳」
「身請け?」
「彼女は場末の酒場の『歌姫』でね、そう云えば聴こえは良いが唯の雑用さ。もっと大きな所で唄いたいってのを叶えてやりたくて」
 鼻息荒く捲し立てるのを『まあまあ、』と宥め、『其れでしたら』と試筆用のガラスペンに洋墨を浸け手渡して。『話は聴いていたのか?』とギョっとする男に笑い掛けた。
「其れなら尚更の事、貴方の文字で貴方の言葉を書くべきです。代わりに、アドバイスは致しますよ」
「お、おう……」
 腑に落ちないと云わんばかりの男の厳つく働き者である事が窺える手がペンを握る。手紙に落とすのは、薔薇よりも尚濃い血の様な赫だった。

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『なあ、アンタ聴いたかい? 何でも店の『歌姫』をよ、買おうとした男がオーナーと揉めて殺しちまったって。而も女には他に男が居たって話だぜ』
「そうですか、其れは中々報われない話ですね――……」
執筆:しらね葵

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