PandoraPartyProject

幕間

魔砲がある一日

関連キャラクター:ルシア・アイリス・アップルトン

魔砲のファンがまた一人増えた話
 幻想場末の酒場には、うだつの上がらない冒険者が燻るものだ。
 今日も年若い魔法使いの少年が、先輩冒険者に絡まれていた。
「お前、最近趣味変わったよな? そんなの読んでなかっただろ。誰か女にでも惚れたか?」
「あ、あはは。……バレちゃいました?」
「しゃらくせぇな。俺とお前の仲だろ、詳しく聞かせてくれよ」
 少年は渋々頷き、語り始めた。あの鮮烈な思い出を。



 それは、彼がとある依頼を受け、モンスターの討伐に向かったときの話。
 大方の相手は難なく片付いたが、問題は甲虫型のモンスターだった。強固な甲殻は剣を通さず、生半可な魔法も弾き飛ばす。一人、また一人とメンバーは疲弊していき、絶体絶命かと思われたその瞬間。
「ずどーん! でしてー!」
 極彩たる破壊力の権化が、彼方から飛来するや否や強敵を吹き飛ばした。そう、一筋の光線が――勝利を齎したのだ。
 いとも簡単に。呆気なく。木っ端微塵に。
 唖然とする少年たちをよそに、小柄な少女がぴょこぴょこと子兎のように現れる。少女は男たちを視界に入れると、小首を傾げた。
「ルシアたち以外にも人がいたです? 大丈夫でして?」
「あ……はい。お陰さまで」
 我に返って応じる少年に、少女はにこりと笑顔を見せる。
 自分と同年代どころか、もっと幼い少女だ。太陽のような金髪で、可憐なエプロンドレスを着た。
 なんてことだろう。こんなあどけない少女が、自分たちの窮地を救ってくれた――?
「ここにはときどきやたら堅い虫が出るって、美咲さん……ルシアの仲間が言ってましたから、気をつけるのですよー。ま、どんな相手でも魔砲の前にはイチコロでして!」
 そうして彼女は、一緒に依頼に来たらしい、眼鏡を掛けた黒髪の女性と共に去っていった。
 小さな背中に憧憬の眼差しを浴びながら。



「へぇ、それでお前はその娘に惚れたってわけか!」
「いいえ。惚れたのは……どっちもです」
「どっちも?」
 照れ臭そうに笑う少年の傍らには、とある週刊雑誌が山積みになっていた――。
執筆:

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