PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

〜希望ヶ浜グルメ巡り〜

関連キャラクター:イルミナ・ガードルーン

溶けだす夕暮れの寒天ゼリー
 夕飯時の買い物客で賑わうアーケードでイルミナがチラシを受け取ったのは、課外授業を終えた帰り道のことだった。
 涼やかに浴衣を着こなした女性が、道行く人に声をかけ、チラシを渡していく。
 受け取ったそれを見てみれば、新たにオープンした和菓子屋の広告だった。右下の方に小さく描かれた地図を見てみれば、ここからそう遠くは離れていないことがわかる。
 営業時間は──まだ、4時間ほどと余裕がある。
「まぁ変えるにも暑いし、折角ならお店に寄らせてもらうっス」
 暑さでパーツがイカレてしまうのもよくないっスからねと、ぽつりとつぶやくと、地図の示すとおりの道を歩いていく。
 アーケードから一本小道に入ると、先程までの人だかりが嘘のように静かなものだった。
 3分ほどまっすぐに歩いた右手側に、白い暖簾がひらひらとはためいているのが見える。

 ──御菓子司 清野屋

「目的地は、多分ここっスね。静かそうで良いところっス」
 そういうとイルミナは和菓子屋の中へ歩を進める。
 店の作りはとても簡素なもので、入ってすぐに可愛らしい和菓子が並べられたショーケースの左手奥に、いくつかテーブルと椅子が置かれたイートインスペースがあった。
 中庭と思しき景色が見える窓際の席に腰かけてメニューを開いて目に飛び込んできた「夕暮れ寒天ゼリー」が、一際彼女の目を引いた。
 テーブルに置かれたベルで店員を呼び、イルミナはさっそく注文を伝える。
「えっと、夕暮れ寒天ゼリーと……あとは月の和紅茶を一つ」
 ペコリと一礼をして店員が下がってしばらくすると、優しい香りの紅茶とともに目的の甘味が運ばれてくる。
 観点で固められているであろうそれは、下は紫から始まり上の方に行くにつれて淡いオレンジ色のグラデーションで彩られていた。
 いただきます、と手を合わせて供えられていた黒文字で寒天ゼリーを一口大に切る。
 抵抗なくすっと楊枝が滑り込み、切った断面もどことなくキラキラしている。
 口の中にそれを運ぶと、噛んでみればオレンジの爽やかな甘みと酸味が感じられ、そしてひんやりとした寒天が喉元をつるりと通り過ぎていく。
「これは……暑い夏に嬉しいっスね……!」
 うんうんと唸りながら、和紅茶も一口啜る。口の中に広がっていた甘みを、紅茶の苦みがすっきりと引き締めてくれるのを感じた。
「和菓子というよりも、少し洋風な感じもあって……これはこれでありっス!」
 一口運んでは、紅茶で引き締めてを繰り返して。
 暑い夏の時期に良い物を食べたというの顔をしているイルミナの頬を、夕暮れ時の緩やかな風が撫でる。
 チリン、と風鈴の涼やかな音が、御馳走様に涼を添えていた。
執筆:水野弥生

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