PandoraPartyProject

幕間

〜希望ヶ浜グルメ巡り〜

関連キャラクター:イルミナ・ガードルーン

プリンパフェ
 イルミナはコンビニのデザートコーナーの前でプリンパフェをじっと見詰めていた。
「(見た目は前に定番となっていたプリンパフェと変わらないッス……)」
 このコンビニのスイーツは他も食べているのだが、他社製品も入れたイルミランキングによると、割と順位が下に入るという評価である。
 だが今回はコンビニ全体でこのプリンパフェを大きく売り出している。
「(店内POP、アナウンス、店前ののぼり旗まで……これを試さずして何が食べ歩きだッス)」

 購入し誰も居ない部室まで戻れば早速先程購入してきたプリンパフェを机に置く。テープを外し蓋を開ければ仄かに香るクリームの甘さ。
「いただきます……」
 真剣な顔をしながらプラスチックスプーンでプリンを掬う。固めに作られたカスタードの塊を口に含み舌で転がせればサッと溶けていく舌触りにイルミナは僅かに喉を鳴らす。機械だけど。
 更に掘り進めるとスポンジとプリンの層、ここまでなら以前と変わらないが。
「これは、チョコフレークッスか……!」
 そう、スポンジでは無かった。スポンジと思わせたチョコフレークの土台。プリンとホイップクリームでまとわりついた甘い油分をビターなチョコフレークがリセットをかけてくれる。層になっているプリンと食せば味わい深いチョコプリンにも変えられる。正に味の千変万化。パフェの醍醐味であり豪勢さによって起きてしまう避けられぬ欠点、"飽き"を見事に捌ききったのだ。
「中層に置くことでクリームとプリンの甘みで鈍った食感に苦味という刺激を与える……成程、中々やるッスね」
 だがここまでならまだ想定内、評価は上がれど劇的な感動にはならない、やはりこの程度かと諦めながらスプーンを奥底まで入れたその時。
「かた、い……?」
 今度こそスポンジだろうと差し込んだスプーンが僅かに弾かれる。そしてゆっくりと沈んでいくプラスチックにイルミナの頬に汗が伝う。機械なので気がしただけ。
 そして掬ったソレをゆっくりと口に含み咀嚼してみればイルミナの瞳孔が僅かに開き驚きを表す。
「ブラウニー……ッスか?」
 ほろほろと口の中で解れるチョコレートにフレークと違った苦味と甘みのアクセント。
「キャラメル……?」
 正解。キャラメルが含まれたそれはただビターなだけではなく、プリンの甘さに添い遂げられる母性を有した優しい甘味。
 最後まで食す者の事を考えられた至高の甘味断層。
 間違いない、このプリンパフェはイルミランキングの中でも十指に入る剛の者。
 イルミナは目を閉じて感動を味わう。そして息を静かに吐きながら。
「ご馳走様でした」
 お粗末様。
執筆:胡狼蛙
揺籠
 ――ねえ、識ってる? 『おひとりさまホットケーキ』のお店!
 ――夕方の路地裏を独りで歩いてると『OPEN』って看板が見えるって所?
 ――えー、何か胡散臭っ! 其れより今日何処行く?
 ――あっ、イルミナは今日バイトが入ってるんで御免なさいッス!
 ――そうなんだ、じゃあバイバイ、また明日ね!

「はふぅ」
 嘘を吐いてしまったほんの少しの罪悪感と、梅雨の気怠さを揺籠に委ねながら。グラスの表面に浮き立つ水滴がぽたりと制服のスカートに落ちたのを手帛で拭って、ストローでちびちびとアイスコーヒーを啜る。
 周りを見渡すと、リラックスし過ぎて完璧に寝に入ってる事が窺えるサラリーマンらしき男性や、こんな所でも勉強をしている学生、其の誰もが天井から釣り下げられた白い繭の様な吊床に包まれ、時たまゆらり、ゆらりと揺れていた。
 ――当店ではオーダーを受けてから一枚ずつじっくり焼いて行く為、20分程お時間を頂きますが宜しいですか?
 と、其れから15分は経った頃だろうか。人間観察も一通り済まし、待ち遠しくてきょろきょろとしていると軈て店員がカウンタードアから出て来たものだから慌てて居住まいを正す。
 ――お待たせしました、此方『シナモンバニラメープル&アップルのスフレホットケーキのLサイズ』です。
「おおっ!?」
 ――ふふ、大きいでしょう? 初めてのお客様は驚かれるんです。では、ごゆっくり。

「ふーむ、此れは何処から崩したものか……取り敢えず先ずは一口」
 フォークを刺せば表面はサクッと。中はしっとり。密度の高いスフレホットケーキは唯、只管に甘い。
「口の中でスゥっと溶けて行くッス! どれ、次は――」
 分厚いケーキもさる事ながら、其れよりも堆く皿に盛られた生クリームはシナモンパウダーでお粧しを。鍋でくたくたになった苹果のハニーコンポートとの相性は言わずもがなだ。
「最初に苹果とシナモンを組み合わせようと思った人は天才ッスね……おっ、アイスにも苹果が入ってるッス! なんて贅沢な」
 バニラアイスとクリームに甘い果実をケーキに欲張り載せで大きな一口でぱくりと頂けば、脳天まで突き抜けるスパイスと蜂蜜の甘みとアクセントに為るバニラが馨り、口の中で絶妙な調和が齎されて。
 余りの事に頭が『Error』を吐き出しそうでぼふ、っと深く吊床に沈み伸びをしてから苦めのアイスコーヒーで口の中をリセット。ガムシロップを入れなくて正解だった――と己を讃え、其れから腰を据えて本格的に攻略に踏み出す。
「焼き立ては冷めない内に食べるが流儀ッスからね!」
 ちらり、とドアの外に目を遣れば、茜色は形を潜め、涼しい夜色が路地裏に落ちていた。
執筆:しらね葵
溶けだす夕暮れの寒天ゼリー
 夕飯時の買い物客で賑わうアーケードでイルミナがチラシを受け取ったのは、課外授業を終えた帰り道のことだった。
 涼やかに浴衣を着こなした女性が、道行く人に声をかけ、チラシを渡していく。
 受け取ったそれを見てみれば、新たにオープンした和菓子屋の広告だった。右下の方に小さく描かれた地図を見てみれば、ここからそう遠くは離れていないことがわかる。
 営業時間は──まだ、4時間ほどと余裕がある。
「まぁ変えるにも暑いし、折角ならお店に寄らせてもらうっス」
 暑さでパーツがイカレてしまうのもよくないっスからねと、ぽつりとつぶやくと、地図の示すとおりの道を歩いていく。
 アーケードから一本小道に入ると、先程までの人だかりが嘘のように静かなものだった。
 3分ほどまっすぐに歩いた右手側に、白い暖簾がひらひらとはためいているのが見える。

 ──御菓子司 清野屋

「目的地は、多分ここっスね。静かそうで良いところっス」
 そういうとイルミナは和菓子屋の中へ歩を進める。
 店の作りはとても簡素なもので、入ってすぐに可愛らしい和菓子が並べられたショーケースの左手奥に、いくつかテーブルと椅子が置かれたイートインスペースがあった。
 中庭と思しき景色が見える窓際の席に腰かけてメニューを開いて目に飛び込んできた「夕暮れ寒天ゼリー」が、一際彼女の目を引いた。
 テーブルに置かれたベルで店員を呼び、イルミナはさっそく注文を伝える。
「えっと、夕暮れ寒天ゼリーと……あとは月の和紅茶を一つ」
 ペコリと一礼をして店員が下がってしばらくすると、優しい香りの紅茶とともに目的の甘味が運ばれてくる。
 観点で固められているであろうそれは、下は紫から始まり上の方に行くにつれて淡いオレンジ色のグラデーションで彩られていた。
 いただきます、と手を合わせて供えられていた黒文字で寒天ゼリーを一口大に切る。
 抵抗なくすっと楊枝が滑り込み、切った断面もどことなくキラキラしている。
 口の中にそれを運ぶと、噛んでみればオレンジの爽やかな甘みと酸味が感じられ、そしてひんやりとした寒天が喉元をつるりと通り過ぎていく。
「これは……暑い夏に嬉しいっスね……!」
 うんうんと唸りながら、和紅茶も一口啜る。口の中に広がっていた甘みを、紅茶の苦みがすっきりと引き締めてくれるのを感じた。
「和菓子というよりも、少し洋風な感じもあって……これはこれでありっス!」
 一口運んでは、紅茶で引き締めてを繰り返して。
 暑い夏の時期に良い物を食べたというの顔をしているイルミナの頬を、夕暮れ時の緩やかな風が撫でる。
 チリン、と風鈴の涼やかな音が、御馳走様に涼を添えていた。
執筆:水野弥生
冷たい揚げ物。或いは、今年の夏のお気に入り…。
●冷やしカツ丼
 〇月×日、天気は快晴。
 炎天下の下、列に並ぶこと小一時間。
「ふぅ。思ったよりも待ったッスね」
 冷房の効いた店内に、青い髪の少女が足を踏み入れた。赤い縁のアンダーリムを指で押し上げ、店員の案内に従って空いている席に腰を下ろした。
「冷やしカツ丼をお願いするッス!」
 店員が声をかけるよりも早く、メニュー表を一瞥することさえもなく、青い髪の少女……正確には少女ではないが……イルミナ・ガードルーンは注文を終えた。
 “揚げもの、かつ蔵”の冷やしカツ丼。
 この夏、希望ケ浜で話題を攫う、期間限定のメニューであった。

 つゆの注がれた大きな器。
 添えた指に伝わる冷気。
 キンキンに冷えた器に盛り付けられた米とトンカツ。そこにたっぷりのつゆが注がれている。カツの上に乗せられているのは、すりおろした山芋……“とろろ”だろう。それから一口サイズにカットされた、キュウリとオクラ。薬味はみょうがと青じそである。
「キンっキンに冷えてるッス。あぁ、つゆに砕いた氷が入れられてるんッスね」
 まずは一口。
 レンゲで掬った、つゆを唇へと運ぶ。
 ふわり、と鼻腔を擽る醤油とカツオ出汁の風味が、たまらなく食欲を刺激した。
「出汁は天然ものッスね。これは……カツオに昆布、それから煮干しッスか」
 丁寧に取られた出汁である。
 ベースは辛口の醤油だろうか。
「この味を出すには、随分な手間をかけたことと思うッス」
 目を閉じて数度、イルミナは頷いた。
 次にイルミナは箸を手にして、つゆに浸った米を少量挟み上げた。もぐ、と咀嚼すれば歯にはしっかりとした“芯”の感覚が伝わった。きっと冷水で洗った米だ。つゆに浸すことを前提に、わざと硬めに炊いているのだ。
「つゆが染み込んで、お米だけでも十分に美味しいッスね。いやはや、こういう食べ方があるとは……感動さえ覚えるッスよ」
 囁くように感想を口にし、イルミナはお冷に手を伸ばした。
 トンカツへ箸を付ける前に、口の中を洗おうというつもりだろう。
「いざ……メインディッシュを!」
 胸の高まりが抑えられない。
 機械仕掛けの体……“ロボット”の体に心臓など無いが「期待感」とは、なんと心地の良いものか。
「っ!? こ、これは……なんという! 冷たい揚げ物が、こんなに美味しくていいんっスか? は、反則に近い!」
 きっといい肉を使っているのだ。カツは冷えてなお柔らかい。
 つゆをたふりと吸った衣は、噛めば噛むほどに口の中へ風味を散らす。
 あっという間にひと切れを飲み込み、気づかぬうちに2切れ目に箸が伸びていた。
「これは皆にも教えてあげないと……いや、それとも秘匿するべきッスかね?」
 悩ましい。
 うむむ、と唸りながらも、箸を動かす手は止まらない。
執筆:病み月
激辛ラーメンVSイルミナ・ガードルーン
『鬼地獄溶岩ラーメン』。希望ヶ浜のとある小さなラーメン屋で提供されるという一品。
 名前だけで敬遠してしまいたくなるその一杯。だが、至高の一杯であると噂されたそのラーメンが、今。イルミナの眼前に差し出された。
「お待ち」
「う……ウス」
 赤い。赤いというか赤黒い。スープも、麺も、上に載っているネギもチャーシューも何もかもが。圧倒的威圧感。圧倒的暴力。丼に入った麺とスープの集合体がこれほどまでの圧を放ってくるという経験は、これまでのイルミナには無かった。
「に、匂いはどうっすか……?」
 轟々と立ち昇る湯気に、イルミナは顔を近づける。
「クッ……!!」
 鼻に侵入してきたソレは、イルミナの全身に危険信号を発せさせるには十分だった。全身から汗が噴き出す。鼻が痛い。店員に渡されたゴーグルがめちゃ曇る。
 誓約書を書かされ、目に入らない様に食べる際は必ずゴーグルを着用してくださいと念押しされたのは、脅しでは無いようだ。
「……フゥーッ……」
 イルミナは大きく息を吐き、臨戦態勢を整える。箸を取る。レンゲも取る。ゆっくりとレンゲを赤き溶岩の如くスープに沈め、箸で業火の如く赤々とした麺を掴み取る。
「頂きます……ッス……!!」
 覚悟を決め、イルミナはスープと共に麺を口へ運ぶ。そして咀嚼。
「カッ……!! ハッ……!! ほぐ、ふぐぇ……!! アカ、アフゥ……!!」
 凄まじい熱量。凄まじい辛み。というか痛み。地獄の鬼でもここまではしないだろううという苛烈な攻撃に、イルミナは必死に耐える。
「(焦ってはダメっす、焦ったら……!! 気管に入ったら全ての終わり……!! この戦いを生き残るには、冷静さを保たなければならないっす! そう、冷静さを……!!)」
 自ら勝負を仕掛けた相手から逃げるという選択肢はイルミナに無かった。イルミナはまず、初めの一口を無事飲み込むことに成功した。
「ふぅ……フゥー……いや確かに美味いっすね、今から思うと……!!」
 そう。確かによくよく考えてみれば味は美味かった。凄まじい辛みの中には確かな旨味とコクがあった。多めの脂が浮いていた様に見えたが、クドサも感じない。
 が、それどころでは無かった気もする。
「イルミナは勝つっすよ……絶対に……ッ!!」
 長い、長い闘いだった。激辛ラーメンに水は厳禁。かと言ってデザートやドリングに逃げては真の勝ちとは言えない。故にイルミナは孤独に、己の力だけで闘い、そしてついに勝利したのである。
「完食ッス……!! ごちそうさまでしたッス!!」
 尋常ならざる量の汗も、今となれば勝利の勲章に等しい。
「見事だ、俺のラーメンを完食するとはな……実は来週から、絶・悪鬼喝采地獄超溶岩ラーメンを販売するんだ。また、食べに来てくれるかな?」
「……………………」
執筆:のらむ

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