PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

〜希望ヶ浜グルメ巡り〜

関連キャラクター:イルミナ・ガードルーン

揺籠
 ――ねえ、識ってる? 『おひとりさまホットケーキ』のお店!
 ――夕方の路地裏を独りで歩いてると『OPEN』って看板が見えるって所?
 ――えー、何か胡散臭っ! 其れより今日何処行く?
 ――あっ、イルミナは今日バイトが入ってるんで御免なさいッス!
 ――そうなんだ、じゃあバイバイ、また明日ね!

「はふぅ」
 嘘を吐いてしまったほんの少しの罪悪感と、梅雨の気怠さを揺籠に委ねながら。グラスの表面に浮き立つ水滴がぽたりと制服のスカートに落ちたのを手帛で拭って、ストローでちびちびとアイスコーヒーを啜る。
 周りを見渡すと、リラックスし過ぎて完璧に寝に入ってる事が窺えるサラリーマンらしき男性や、こんな所でも勉強をしている学生、其の誰もが天井から釣り下げられた白い繭の様な吊床に包まれ、時たまゆらり、ゆらりと揺れていた。
 ――当店ではオーダーを受けてから一枚ずつじっくり焼いて行く為、20分程お時間を頂きますが宜しいですか?
 と、其れから15分は経った頃だろうか。人間観察も一通り済まし、待ち遠しくてきょろきょろとしていると軈て店員がカウンタードアから出て来たものだから慌てて居住まいを正す。
 ――お待たせしました、此方『シナモンバニラメープル&アップルのスフレホットケーキのLサイズ』です。
「おおっ!?」
 ――ふふ、大きいでしょう? 初めてのお客様は驚かれるんです。では、ごゆっくり。

「ふーむ、此れは何処から崩したものか……取り敢えず先ずは一口」
 フォークを刺せば表面はサクッと。中はしっとり。密度の高いスフレホットケーキは唯、只管に甘い。
「口の中でスゥっと溶けて行くッス! どれ、次は――」
 分厚いケーキもさる事ながら、其れよりも堆く皿に盛られた生クリームはシナモンパウダーでお粧しを。鍋でくたくたになった苹果のハニーコンポートとの相性は言わずもがなだ。
「最初に苹果とシナモンを組み合わせようと思った人は天才ッスね……おっ、アイスにも苹果が入ってるッス! なんて贅沢な」
 バニラアイスとクリームに甘い果実をケーキに欲張り載せで大きな一口でぱくりと頂けば、脳天まで突き抜けるスパイスと蜂蜜の甘みとアクセントに為るバニラが馨り、口の中で絶妙な調和が齎されて。
 余りの事に頭が『Error』を吐き出しそうでぼふ、っと深く吊床に沈み伸びをしてから苦めのアイスコーヒーで口の中をリセット。ガムシロップを入れなくて正解だった――と己を讃え、其れから腰を据えて本格的に攻略に踏み出す。
「焼き立ては冷めない内に食べるが流儀ッスからね!」
 ちらり、とドアの外に目を遣れば、茜色は形を潜め、涼しい夜色が路地裏に落ちていた。
執筆:しらね葵

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