幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
Chat in the Stella Bianca
Chat in the Stella Bianca
ここは昼間は軽食喫茶 兼 夜はバーの"Stella Bianca"
今日もオープンキッチンでは店主のモカ・ビアンキーニが働いています。
(チリンチリーン)
おや、お客様の来店でしょうか……。
「いらっしゃいませ!」
関連キャラクター:モカ・ビアンキーニ
- シンデレラは夢を見る。
- 「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「……赤ワイン。うんと強いやつ」
どうしたものだろうか、とモカは考えた。
時刻はバータイム。青白い月が弱く光を湛えていた。
"Stella Bianca"を訪れた客の女は赤いドレスに身を包み、煌めくアイシャドウが良く似合っている。
ああ、誤魔化せているつもりだろうか? だが、イレギュラーズとして経験を積んできたモカに見抜けぬはずもない。
「申し訳ありません。当店では未成年のお客様にお酒を提供することはできません。ノンアルコールでしたらお出ししますが」
女は赤い、それこそワインのような瞳を大きくさせた。
どうしてバレたのかと言いたげに唇をわななかせれば、その視線は下を向く。
それはどこか落胆したようでもあり、諦めているようでもあった。
「なら、軽く食事を。スモークチーズが欲しいわ」
そう告げた女、いや少女の前のカウンターにモカはチーズの盛り合わせを置いて、女性にしては低いその声をかけた。
「お酒は二十歳になってから。その時は、店でとびっきりのをお出ししますよ」
スモークチーズをひとかけら。少女が口に運んでからまた口を開くまでの時間は嫌に長く感じた。
彼女は縋るような瞳でモカを見つめる。
「私、やっぱりまだこどもなのかしら」
「18になって、それでも世間から見ればまだこども?」
「こどもだから、愛されることすらも許されないの?」
わななく唇から洩れた、嗚咽のような言葉。
縋りたい、救われたい。苦しいから、悲しいから。
ワインを飲んで、自らを大人なのだと思い込みたいほどに、ほしいものがあった。
モカは無言でシェイカーを手に取れば、オレンジジュースとレモンジュース、それからパインジュースを注ぎ入れる。
シャカシャカと、シェイクする音だけがバーに響く。
無言の時間は少女には耐えがたかったのか、俯いたその視線の先にモカはグラスを置いた。
「大人か子供かなど、過ごした歳月の差でしかなく、子供が大人に憧れるのも自然なことだろう」
「だが、君が君であることには変わりない」
だから、と言葉を継いでグラスにドリンクを注ぎ入れた。
例えほしいものが今すぐ手にはいらなくても。
そのせいで自分の年齢を呪うことがあっても。
でも、今の少女の時間も過ぎ去っては戻らないものだから。
「ゆっくり大人になればいい。シンデレラ」
『シンデレラ』は夢を見る。
麗しく赤い雫ではないけれど、夢見る少女に贈られた美しいモクテルに涙が落ちた。 - 執筆:凍雨