幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
Chat in the Stella Bianca
Chat in the Stella Bianca
ここは昼間は軽食喫茶 兼 夜はバーの"Stella Bianca"
今日もオープンキッチンでは店主のモカ・ビアンキーニが働いています。
(チリンチリーン)
おや、お客様の来店でしょうか……。
「いらっしゃいませ!」
関連キャラクター:モカ・ビアンキーニ
- "Stella Bianca"の夜。或いは、海賊と店主…。
- ●波の音が聞こえている
カラン、と氷の揺れる音。
ふぅ、と熱い吐息を零し細身の女性が視線を窓の外へと向ける。
暗い夜、海の彼方に丸い月。
「いい夜ね。でも、きっと明日は嵐になるわ」
そう呟いて、女はグラスを空にした。
頭に巻いたターバンに、視線を隠す丸サングラス。
潮風の香りを纏った女だ。
身につけた高価な装飾品と、リラックスした様子ながらも油断を見せない立ち振る舞い。
彼女は海洋でも名の知れた海賊である。
「……嵐? こんなに風も穏やかなのに?」
空のグラスに酒を注いで、モカ・ビアンキーニはそう問うた。
モカ・ビアンキーニは彼女の素性を知っているが、そのことを言及するつもりは無い。静かに酒を飲んで、少しだけ言葉を交わして、それで満足して帰っていくのなら、彼女はただの客なのだから。
もちろん、この店で揉め事を起こすのであれば、容赦はしないつもりではある。
幸いなことに、今夜の客は彼女1人だ。
多少、荒っぽくなっても、誰も迷惑はしないだろう。
もっとも、彼女の方も別に争いに来たわけではないようなので、そのような心配はきっと杞憂に終わるだろうが。
「嵐の前の静けさっていうでしょう? 海の上で長く過ごすと、なんとなく分かるようになるのよ」
そう言って女海賊は、グラスの中身で唇と喉を湿らせる。
唇に付いた酒精を、赤い舌でペロリと舐めた。
艶めかしささえ感じる所作だ。
「いいお酒ね。マスターも飲んで。私の奢りだから」
「あぁ、では遠慮なく……酒に関しては、ちょっと伝手がありましてね。いいのを揃えるようにしているんです」
わざわざ店を訪れた者に、安い酒を提供するのは気が引ける。
そういった理由によるものか、バーカウンターの棚に並んだ酒のボトルは、どれも上等なものばかりだ。その割に、1杯の値段は決して高すぎると言うことは無い。
「次はこちらを試してみませんか? “真っ赤な薔薇”というワインです」
「そう……では、いただこうかしら。なぜ“真っ赤な薔薇”と?」
「ある女性の唇の色に似ているからだとか」
艶やかな、血の色にも似た紅いワインをグラスに注ぐ。
芳醇な香りに瞳を細め、女性はうっとりと瞳を細めた。
「いい香り。その名前を付けた男は、きっとかなりのロマンチストね」
「えぇ、きっと。男には男の世界があるんでしょう。或いは、美学と言ってもいいかもしれませんが……どちらにせよ、気障ですね」
くすりと笑って、モカと女は視線を交わす。
「ボトルのキープはできるかしら?」
「えぇ、もちろん。名前はなんと?」
キープの札を手に取って、モカは女にそう問うた。
壁にかかった手配書へと目を向けて、女は答える。
「マリブと、そう書いておいて」 - 執筆:病み月