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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

今日のフリック(フリック観察日記)

関連キャラクター:フリークライ

春告げの白
 ずっとむかしの話です。
 みんなはいろんな色を持っているのに、雪だけは何の色も持っていませんでした。
 さびしかった雪は、土に、草に、花々に、あなたの色を分けてくれないかとお願いしました。
 だけど、みんなは雪を笑うばかりで、何も分けてくれません。
 雪が諦めかけたとき、白色の花が声をかけました。
 私の色でよければ、あなたに分けてあげますよ、と。
 雪は喜んで白の色をさずかり、かわりにお礼をあげました。
 それからというもの、その小さな白い花は、春が来て真っ先に咲けるようになったのです。

 ――硝子の向こうではしんしんと雪が降り続けている。立ち並ぶ枯れ木もすっかり雪化粧を施され、見渡す限りの白色だ。まるで己の色を無邪気に見せびらかすかのように。
 雪色の少女は、窓の外の情景を眺めながら、異国で語り継がれているという民話を語った。静かに、けれど力強い好奇心と共に語る彼女の声を、フリックは忘れない。
 ……その話を、主は単なる退屈しのぎに語ったのだろうか? それとも、純白の花のような優しさをフリックにも持ってほしかったからなのだろうか?
 今となっては、答えを知る術はない。ただ、溶けかけの雪が早春の陽射しを浴びる頃――白い花がひっそりと佇んでいるのを、フリックは目にしていた。

 ●

 雪色の少女が、窓辺に立っている。墓守たるフリックが死者と生者を混同することはない。たまたま依頼で助け出した少女と、談笑を交わしているだけだ。
 口数少なく話を聞いていた少女は、フリックの肩を指差した。
「じゃあ、その花が咲いてるってことは、もうすぐ春が来るのかな?」
 少女が示す先で、一輪の花が咲いている。雫が垂れるように下向きに花を咲かせる姿からも、真っ白な色彩からも、慎ましやかな美しさが感じ取れた。
 この花こそが、当の昔話で語られる『春告草』であった。
「ン。ソウ 言ワレテル」
「本当? 外はこんななのに?」
 あのときとは違い、吹雪はびゅうびゅうと窓を叩いている。魔力で防護された窓硝子はこの風雪でもひび割れない設計になっているが、それでも鬼気迫る勢いを感じさせた。お世辞にも春が近づいているとは言えない。
 答えに窮するフリックを見て、少女はどこか哀しげに口を閉じた。
 春、雪解け、暖かい、希望……。
 フリックは暫し悩んだ末、ゆっくりと語りかけた。
「春ノ 代ワリニ モウスグ イイ事ガ 起キルノカモ?」
 やたら曖昧で人間的な答えがおかしかったのか、気遣う彼の優しさが嬉しかったのか。
 様子を窺うフリックの前で、彼女は口に手をあて、“少女”めいた仕草で笑ってみせた。
「ふふふっ。そうだといいね」
 彼女が元気に笑ってくれて、フリックもほっと一息。コアの内から暖かい感情がぽかぽかと。
 ……肩元に宿ったスノードロップの花は、優しく優しく、苛烈な吹雪も、彼らの小さな春の訪れも、見守り続けていた。
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