PandoraPartyProject

幕間

今日のフリック(フリック観察日記)

関連キャラクター:フリークライ

2022/5/31

 咲いていた花:ねこじゃらし(青)
 大きさ:ふつう
 長さ:ながめ
 その他:ふかふか
 エピソード:歩いていたら後ろに猫の行列が出来ていた。
執筆:
ふわふわ事件
 ある日、フリークライが、ふわふわになっていた。
「まあ、ミントやシソが増えたんじゃないからまだいいけど……どこで拾ってきたのよ」
「サア」
 元々フリークライには草や苔が生えていた。が、それに加えてふわふわの黄金色をした『何か』達がゆらゆらうごめきメーメーとないているのだから、小さな牧場のような有様だ。
 『何か』はレンゲの方を向き、丸い緑の瞳で、「メェ」とあいさつをする。それを見て、レンゲはとうとう大げさに天を仰いだ。
「なんでこんなに羊草がいるのよ! ご丁寧にメーメーメーメーないて、切りにくいったらありゃしないわっ」
 羊草。プランタ・タルタリカ・バロメッツ。羊の入った実をつける、神秘の植物。実を熟すまで放置すれば、生きた羊が中から現れる。そして、茎に繋がれたままあたりを本物の羊の如く食べ荒す……といった具合である。
 無論、周囲に食べる草が無くなれば、飢えて羊は枯れる。なお味は甲殻類に似ている模様。
「話に効いたのと比べて随分小型だけど、このままじゃアンタまるっとハゲ山よ? 近所の村で刈り取ってもらって頂戴。羊毛と肉のようなものが手に入るんだから、向こうだってタダでやるわよ」
 自身の特等席を奪われかけているレンゲはフリークライを急がせようとするが、当の宿主は、
「デモ、羊、可哀ソウ」
 この一言である。生まれたばかりのバロメッツ達は、食欲旺盛にフリークライの体に生えた緑を食み、機嫌よさそうにないている。
 
 と、そこに、
「待ってください、刈らないでくださいっ!」
 大量の鉢を担いだ少年がやってくる。背はひょろ高く、真面目そうな顔立ちは息切れのせいか苦しそうだった。
「何よアンタ」
「師匠が逃がしたバロメッツを捕まえに来た者ですっ……ああっ、あんなてっぺんに。登れるかな……」
「バロメッツ、逃ゲタ?」
 ぴょんぴょんとフリークライの背の上に手を伸ばそうとする少年であったが、やがて無理だと察したのかその場にへたり込む。
「はい、正確には、バロメッツの綿毛が、ですが」
 話を聞けば、少年の師匠は植物魔法に長けた魔女であるらしい。
 観賞用に小さく品種改良したバロメッツ達を鉢に入れ、手押し車に乗せて森の広場に連れて行ったところ――ふいに突風が吹く。
 そして、ちょうど種をつけていた一匹のバロメッツから綿毛が飛び立っていったのだという。
「その後は飛んだ綿毛の行方を二人で調べ続けました――風を読み、占術を何度も行い、精霊達の話も聞き……」
「ココ、来タ」
「ですっ」
 メエ。
 弟子を見て、バロメッツがのどかになく。

「結局この子達、どうするつもり?」
「鉢に入れて、師匠のところに持って帰ります。帰りは転移の呪文があるので大丈夫ですけど……掘り起こすの大変だなぁ」
「二人、バロメッツ、食ベル?」
 フリークライの腕を伝いながら、何とか頭上へ移動した弟子。小型の鉢にバロメッツを丁寧に植え直せば、メエ、メエと他のバロメッツ達が問うようになく。
「そんなことはしません。師匠は自分の髪の毛より羊達を大事にしています。毛刈りをすることはありますが、毎朝若草を生やしては食べさせ、肥料もあげ、放牧してますし」
「そして、うっかり綿毛を逃がしてフリックの頭に羊が生える、と。全くいい迷惑ね」
「すみませんって……というかいつもより毛並みすごっ! どんな魔法を使えばこんなに栄養状態のいいバロメッツが生えるんですか!?」
 やがて日が暮れる頃、バロメッツを回収し終えた弟子は、一礼をして呪文を唱え、去っていった。
 ご迷惑をかけたお詫びに、と残されたのは、良質な金色の毛糸玉三つ。
執筆:蔭沢 菫
またね。
ゆっくりと、なるべく身体を揺らさないように歩きながらフリックは小高い丘を目指していた。
ほんの少し前のことだ。フリックの身体に咲いた小さな黄色い花が萎んでしまってフリックはちょっと悲しくなっていた。
どうしてだろうと思ったけれど、今日の朝になってみると黄色い花は真っ白な綿毛になって大空へと羽ばたく準備をしていた。
タンポポだったのだ。
丘の頂上に着くと優しい風がフリックの身体と綿毛を撫ぜる。空の向こうへと旅立っていく綿毛を見ながらフリックはゆっくりと手を振った。
きっと優しい風と手を繋いで、どこまでもどこまでも旅をするのだろう。そうしてまたどこか違う土地で出会えたら、それはとても素敵なことだな。とフリックは思った。
執筆:ナーバス
小さな黄金のしあわせ
 この無垢なる混沌のどこにいても、フリックの背中という場所に一番似合わない言葉は「静寂」あるいは「陰気」だろう。
 それは主に同居人(?)のレンゲが賑やかなためでもあるし、時折やってくる青い鳥たちが歌っているためでもある。
 しかし……1週間ほど前から輪をかけて騒がしい。具体的には普段の3倍から5倍ほどは騒がしい。
 なぜか。

 ぴちちちちちっ、ぴちちちちちっ。
 ひょるるる、ひょるるるるるー。
 きょっ、きょっきょっきょっ。
 ちっ。ちっ。ちぴゅぅぅぅいちちっ。

 この大量のゲスト――色も種類も様々な、数十羽にもなろうかという小鳥の群れ――が思い思いに、そして楽しそうに歌っているせいだ。
 小さな鳥が歌っては跳ね、飛んでは歌いとしているせいで全部で何羽いるのかレンゲにも分からない。数えようとしたが途中で諦めた。

「……ねぇフリック。アタシもう、この1週間で半年分くらい鳥の鳴き声を聞いた気がするわ」
「ン。ミンナ、楽シソウ」
「いやそういうことじゃなくて……まあいいわ、嫌な音ってわけじゃないし」

 半ば呆れ顔のレンゲが見上げるのは、全高2mほどの1本の低木。
 どこからか飛んできた小鳥が2人も気づかない間にいつの間にか種を落としていったらしく、それがフリックの背中であっという間に芽吹き、花が咲き、実をつけ、育ち、色づき、そして熟して甘い香りを漂わせ……その匂いに惹かれてきたのが今もぴぃぴぃと賑やかに合掌している種々の鳥たち、というわけだ。
 その実を混沌世界の外で探すのであれば、ビワがよく似ている。
 普通であれば今もたわわに揺れている黄金色の実をそのまま我先にと啄んでしまいそうなものだが……ここは安全で、そして鳥たちに行き渡るのに十分な実がなっている。鳥たちもそれが分かっていて、甘く熟して落ちてくるのを今か今かと待っているのかもしれなかった。
 そして……。

「ン。ミンナオ待タセ、モウイイヨ」

 十分に熟した実が自然と、そして示し合わせたようなタイミングで次々と地面に落ちる。
 レンゲ曰くお人好しなフリックはその振動を感じて鳥たちに声をかけるのだが、それよりも早く鳥たちは落ちた実に群がっていき、小さな食事会が幕を開けた。
 薄い皮を気にせず啄むもの。
 小さなくちばしで器用に皮をむいて瑞々しい果肉を楽しむもの。
 一番大きな鳥などは、豪快にも丸ごと一つ実を飲み込んで満足げに飛び去っていってしまった。

「ああやって種を広げていくのね……」

 何となく何かを理解できた気分で見送るレンゲの肩に止まる青い鳥は、彼女の顔を見上げて小首を傾げてみせる。
 レンゲは食べないの? とでも言わんばかりだ。

「あー……アタシはいいわ。直接食べるよりは養分でいただくから。それよりアンタたちも実が落ちるの待ってたんでしょ? いつまでもこっちにいると全部食べ尽くされちゃっても知らないわよ」

 苦笑いのレンゲが促すと、青い鳥はピィ、と一声囀って食事会に加わりにいった。
 食事に集中している間は、鳥たちも打って変わって静かだ。
 やがて綺麗に実を食べ尽くした鳥たちは一羽、また一羽と飛び去っていき、いつもの青い鳥たちだけがその場に残った。

「レンゲハ鳥サンタチノ声、嫌ダッタ?」
「誰もそんなこと言ってないでしょ。……まあ、たまにはフリックも鳥の役に立てて良かったんじゃない?」
「ン。嬉シカッタ。……マタ来ルカナ?」
「さぁ? この木の寿命なんて知らないし……来年までこいつが元気だったら、また実をつけて似たようなことになるんじゃない?」
「ソウダネ。ソレモ、縁」

 言葉を交わしながら見上げた視線の先には、空の青にくっきりとした深緑の輪郭を描き出す楕円の葉。
 今さらながらあの実はどんな味だったのか、ほんの少しだけ気になるレンゲなのだった。
 それは初夏の2人に舞い降りた、小さな黄金がもたらしたほんの一時のしあわせ。

 ――鳥たちが食べ残した種から次々に育った木でちょっとした果樹園状態になったフリックの背中で、日照権を侵害されたレンゲが大いにぷんすかするのは、また別の話。

「ちょっと!? どう収拾付けるのよこれーっ!!」
紫色の転寝日和
 ぽつ、ぽつ、灰色空からちいさな雫が落ちてきた。
「あら。丁度いいわ、雨宿りしていきましょう」
「えー、はやくうちにかえりたいのに……」 
 とある町と町を隔てる森の中、ひと組の親子が苔生した岩場にぽっかりできた空洞へ駆け込んだ。
 人の手が加えられた痕跡を見るに祠か何かだろうか。なんだか不思議と安心するような心地で、母親が「少しの間だけお邪魔いたします」と手を合わせれば息子も倣う。
 すぐに勢いを増した雨に閉ざされ、暇を持てあました息子が指差し尋ねた。
「かーちゃん、かーちゃん。これ、なんのはな?」
 岩の隙間から垂れ下がる紫のカーテンが薄暗い視界にはとても鮮やかで、まるでふたりを『歓迎』しているような『優しさ』を湛えた咲きぶりだ。
「そうねぇ……『藤』じゃないかしら」
 少しだけ時期は過ぎてしまっているけれど、と母親。
「そういえば、何か用事でもあったの?」
「……べつに。やくそくとか、したわけじゃないし」
 不貞腐れたような声は雨音に紛れ、外へは漏れない。それでも祠の中で響くには十分だった。
「そう、会いに行こうと思ってたのね。お菓子を持って?」
 両手で大事に抱え込まれた袋を飾るのは、左右の揃わないリボン結び。まだ焼きたての【魅力的】な香りを漂わせた不恰好なマフィンに似て、もごもごとそっぽを向いた横顔は甘く火照っていた。
 そこにある【恋の予感】に、母親らしくも少女のような笑顔で言った。
「焦らなくても大丈夫よ。ちゃんと晴れるわ」
 ざあ、ざあ、地面を叩く雨音はまだやまない——




 ぽか、ぽか、雲間から溢れたあたたかな陽光に機械の瞳が金色に瞬いた。
 親子はとっくに帰路に就いたようだ。祠、もといフリークライはお礼にと供えられていた焼き菓子を摘んで首を傾げる。
「……フリック ネテタ?」
 ゆら、ゆら、一緒に揺れる紫の花。雨あがりに蜜の香りが広がれば蝶も集い出し、【ブッドレア】のカーテンがかかったフリークライはそれらを連れて森の奥へと消えていった。
執筆:氷雀
それは夢か、あるいは。
 その日もフリックは陽だまりの中でまどろんでいた。
 怠惰の魔種によって、大きな傷を負った深緑。けれど植林によってよみがえろうとしている若い森たちの隅で。新しい風に吹かれながら、彼は夢を見た。 
 それは夢だったのかはわからない。彼は眠る必要のない秘宝種だから。
 けれど、きっと幸せな夢だったに違いない。
 だって、目覚めた彼の背には、光を一杯に浴びて背高く茂る、鳥のような姿をした極彩色の花と、その花によって生まれた日陰で包まれるように広がる白や青の小さな花たちが、森を抜ける風に揺られていたから。

「ン.ダレカ、オ話シテタ?」

 夢の中で、親し気に話し、笑う2人の声が聞こえた気がしたけれど……

 ――日向を好む鮮やかな色彩の花、極楽鳥花。またの名を、ストレリチア。
 ――日陰を好む落ち着いた色合いの花、花魁草。またの名を、フロックス。
執筆:ユキ
奇想天外。或いは、生きた化石と呼ばれるそれを…。
●奇想天外
 それは奇妙な植物だった。
 中央にある種子部分……甘い蜜を分泌する球果から、大きな葉が2枚……1対だけ生えている。
 フリークライの広い背中に、それが根を張ったのは数ヵ月ほど前だっただろうか。ゆっくり、少しずつ、けれど確実にそれは2枚の葉を伸ばし続けた。
 今ではフリークライの背丈を超えて、引き摺るほどに伸びている。
 それでも、葉は伸び続けた。
 成長の限界など無いかのように……否、実際に成長の限界は無いのだろう。コルク質の茎から伸びた葉は、例えば風に引き裂かれようと、地面に引き摺られて擦り切れようと、一切の成長を止めることは無いのだから。
 ウェルウィッチアと呼ばれるその植物は、全く持って奇妙な生態を有している。フリークライの知識に基づいて判断するなら、それは裸子植物で間違いない。
 けれど、葉の性質などは被子植物のそれにも近い。
 はじめのころ、まだ小さかったそれがウェルウィッチアであるとフリークライは気づかなかった。ある程度、成長して植物としての特徴を詳細に確認できるようになってはじめて、その正体に思い至ったのである。
 ウェルウィッチアは“奇想天外”の別名で呼ばれる植物だ。
 きっと、どこかで蟲か風に運ばれた種がフリークライの背に付着して根を張ったのだろう。
 きっと、フリックの背に根付いたウェルウィッチアもいずれは種子を実らせ、子孫を残すためにそれを風へと託すことになる。
 そうして命は巡るのだ。
 と、しかし……そこでふとフリックは思い至った。
 ウェルウィッチアは非常に……桁違いともいえるほどに長い寿命を持つ植物では無かっただろうか。
 1000年を超えている個体も多く、中には2000年以上生きている個体もあるらしい。
 フリークライの背に根付いた個体は、そんな長寿のウェルウィッチアの中では新芽のようなものである。
「フリック……マモルヨ」
 永久ともいえる時を稼動するフリークライにとって、長い付き合いになるかもしれない植物だ。
 そしてきっと、いつかフリークライが機能を停止したとしても、ウェルウィッチアは生き続けられるかもしれない。
 長く伸びた葉に触れて、フリークライは歩き始める。
 陽の当たる場所を目指して。
 そんな彼の周りには、いつの間にかリスや鼠といった森の小動物が続々と集まって来ていた。
 小さなリスがウェルウィッチアの葉に寄った。
 奇妙なほどに長い葉が珍しいのか。
 甘い蜜の香りに惹き寄せられたのか。
 リスを驚かせないように気をつけながら……暖かな場所へ、ゆっくりと歩を進めて行った。
執筆:病み月
春告げの白
 ずっとむかしの話です。
 みんなはいろんな色を持っているのに、雪だけは何の色も持っていませんでした。
 さびしかった雪は、土に、草に、花々に、あなたの色を分けてくれないかとお願いしました。
 だけど、みんなは雪を笑うばかりで、何も分けてくれません。
 雪が諦めかけたとき、白色の花が声をかけました。
 私の色でよければ、あなたに分けてあげますよ、と。
 雪は喜んで白の色をさずかり、かわりにお礼をあげました。
 それからというもの、その小さな白い花は、春が来て真っ先に咲けるようになったのです。

 ――硝子の向こうではしんしんと雪が降り続けている。立ち並ぶ枯れ木もすっかり雪化粧を施され、見渡す限りの白色だ。まるで己の色を無邪気に見せびらかすかのように。
 雪色の少女は、窓の外の情景を眺めながら、異国で語り継がれているという民話を語った。静かに、けれど力強い好奇心と共に語る彼女の声を、フリックは忘れない。
 ……その話を、主は単なる退屈しのぎに語ったのだろうか? それとも、純白の花のような優しさをフリックにも持ってほしかったからなのだろうか?
 今となっては、答えを知る術はない。ただ、溶けかけの雪が早春の陽射しを浴びる頃――白い花がひっそりと佇んでいるのを、フリックは目にしていた。

 ●

 雪色の少女が、窓辺に立っている。墓守たるフリックが死者と生者を混同することはない。たまたま依頼で助け出した少女と、談笑を交わしているだけだ。
 口数少なく話を聞いていた少女は、フリックの肩を指差した。
「じゃあ、その花が咲いてるってことは、もうすぐ春が来るのかな?」
 少女が示す先で、一輪の花が咲いている。雫が垂れるように下向きに花を咲かせる姿からも、真っ白な色彩からも、慎ましやかな美しさが感じ取れた。
 この花こそが、当の昔話で語られる『春告草』であった。
「ン。ソウ 言ワレテル」
「本当? 外はこんななのに?」
 あのときとは違い、吹雪はびゅうびゅうと窓を叩いている。魔力で防護された窓硝子はこの風雪でもひび割れない設計になっているが、それでも鬼気迫る勢いを感じさせた。お世辞にも春が近づいているとは言えない。
 答えに窮するフリックを見て、少女はどこか哀しげに口を閉じた。
 春、雪解け、暖かい、希望……。
 フリックは暫し悩んだ末、ゆっくりと語りかけた。
「春ノ 代ワリニ モウスグ イイ事ガ 起キルノカモ?」
 やたら曖昧で人間的な答えがおかしかったのか、気遣う彼の優しさが嬉しかったのか。
 様子を窺うフリックの前で、彼女は口に手をあて、“少女”めいた仕草で笑ってみせた。
「ふふふっ。そうだといいね」
 彼女が元気に笑ってくれて、フリックもほっと一息。コアの内から暖かい感情がぽかぽかと。
 ……肩元に宿ったスノードロップの花は、優しく優しく、苛烈な吹雪も、彼らの小さな春の訪れも、見守り続けていた。
執筆:
怪しき幻想的な灯り
 その日のフリックはキラキラとしていた。もう日も落ちたというのに色とりどりの小さな光がフリックの周りを飛んでいる。離れて見たら少し時期の過ぎたクリスマスのイルミネーションと勘違いしそうなありさまだ。
「なんか眩しいんだけど」
 フリックの頭の上で動き回る光を目で追っていたレンゲが不満そうな声を漏らす。
「キラキラ 嫌イ?」
「いやそうじゃないんだけど」
 ゆっくり寝れないじゃない! とプンスコするレンゲからフリックはその隣に生えている小さな花へと目をやった。人間の手のひらサイズしかない小さな植物だ。地面を這うように放射線状に伸びた葉っぱと一本だけ点に伸びた茎、全体的な見た目はタンポポに似ている。しかしそのてっぺんにはボンボンのような小さな白い花が一つ咲いていた。
 『妖灯花』と呼ばれる珍しい花である。
 土壌が適していないと育つことはあっても花開くことはないと言われ、花を手に入れると願いが叶うとも言われている。
 そんな妖灯花の特徴は花が咲いている間、周囲に魔力でできた明かりを飛ばすこと。どうやらこれで周辺の魔力を集め、種を作る養分としているらしい。らしい、というのは実例が少なすぎてよくわかっていない部分が多いためだ。
 ただしわかっていることの一つとしてこれは周辺の環境が安全でなければ行われず、滅多に見ることができる光景ではなかった。
 そんな光景が今、フリックの周囲で行われている。つまりは妖灯花は土壌が適しただけではなくフリックの上が安全だと感じているようであった。
「フリック キラキラ好キ」
「まぁ好きならいいんじゃない? 安眠妨害だけど」
 詳しいことはわからなくてもこの不思議な花が無事に種となってまた芽吹いてくれたらいい。ただそれだけでいいのだ。
 花が枯れるまでレンゲの文句は続くのだろうが。
執筆:心音マリ

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