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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

今日のフリック(フリック観察日記)

関連キャラクター:フリークライ

紫色の転寝日和
 ぽつ、ぽつ、灰色空からちいさな雫が落ちてきた。
「あら。丁度いいわ、雨宿りしていきましょう」
「えー、はやくうちにかえりたいのに……」 
 とある町と町を隔てる森の中、ひと組の親子が苔生した岩場にぽっかりできた空洞へ駆け込んだ。
 人の手が加えられた痕跡を見るに祠か何かだろうか。なんだか不思議と安心するような心地で、母親が「少しの間だけお邪魔いたします」と手を合わせれば息子も倣う。
 すぐに勢いを増した雨に閉ざされ、暇を持てあました息子が指差し尋ねた。
「かーちゃん、かーちゃん。これ、なんのはな?」
 岩の隙間から垂れ下がる紫のカーテンが薄暗い視界にはとても鮮やかで、まるでふたりを『歓迎』しているような『優しさ』を湛えた咲きぶりだ。
「そうねぇ……『藤』じゃないかしら」
 少しだけ時期は過ぎてしまっているけれど、と母親。
「そういえば、何か用事でもあったの?」
「……べつに。やくそくとか、したわけじゃないし」
 不貞腐れたような声は雨音に紛れ、外へは漏れない。それでも祠の中で響くには十分だった。
「そう、会いに行こうと思ってたのね。お菓子を持って?」
 両手で大事に抱え込まれた袋を飾るのは、左右の揃わないリボン結び。まだ焼きたての【魅力的】な香りを漂わせた不恰好なマフィンに似て、もごもごとそっぽを向いた横顔は甘く火照っていた。
 そこにある【恋の予感】に、母親らしくも少女のような笑顔で言った。
「焦らなくても大丈夫よ。ちゃんと晴れるわ」
 ざあ、ざあ、地面を叩く雨音はまだやまない——




 ぽか、ぽか、雲間から溢れたあたたかな陽光に機械の瞳が金色に瞬いた。
 親子はとっくに帰路に就いたようだ。祠、もといフリークライはお礼にと供えられていた焼き菓子を摘んで首を傾げる。
「……フリック ネテタ?」
 ゆら、ゆら、一緒に揺れる紫の花。雨あがりに蜜の香りが広がれば蝶も集い出し、【ブッドレア】のカーテンがかかったフリークライはそれらを連れて森の奥へと消えていった。
執筆:氷雀

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