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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

今日のフリック(フリック観察日記)

関連キャラクター:フリークライ

小さな黄金のしあわせ
 この無垢なる混沌のどこにいても、フリックの背中という場所に一番似合わない言葉は「静寂」あるいは「陰気」だろう。
 それは主に同居人(?)のレンゲが賑やかなためでもあるし、時折やってくる青い鳥たちが歌っているためでもある。
 しかし……1週間ほど前から輪をかけて騒がしい。具体的には普段の3倍から5倍ほどは騒がしい。
 なぜか。

 ぴちちちちちっ、ぴちちちちちっ。
 ひょるるる、ひょるるるるるー。
 きょっ、きょっきょっきょっ。
 ちっ。ちっ。ちぴゅぅぅぅいちちっ。

 この大量のゲスト――色も種類も様々な、数十羽にもなろうかという小鳥の群れ――が思い思いに、そして楽しそうに歌っているせいだ。
 小さな鳥が歌っては跳ね、飛んでは歌いとしているせいで全部で何羽いるのかレンゲにも分からない。数えようとしたが途中で諦めた。

「……ねぇフリック。アタシもう、この1週間で半年分くらい鳥の鳴き声を聞いた気がするわ」
「ン。ミンナ、楽シソウ」
「いやそういうことじゃなくて……まあいいわ、嫌な音ってわけじゃないし」

 半ば呆れ顔のレンゲが見上げるのは、全高2mほどの1本の低木。
 どこからか飛んできた小鳥が2人も気づかない間にいつの間にか種を落としていったらしく、それがフリックの背中であっという間に芽吹き、花が咲き、実をつけ、育ち、色づき、そして熟して甘い香りを漂わせ……その匂いに惹かれてきたのが今もぴぃぴぃと賑やかに合掌している種々の鳥たち、というわけだ。
 その実を混沌世界の外で探すのであれば、ビワがよく似ている。
 普通であれば今もたわわに揺れている黄金色の実をそのまま我先にと啄んでしまいそうなものだが……ここは安全で、そして鳥たちに行き渡るのに十分な実がなっている。鳥たちもそれが分かっていて、甘く熟して落ちてくるのを今か今かと待っているのかもしれなかった。
 そして……。

「ン。ミンナオ待タセ、モウイイヨ」

 十分に熟した実が自然と、そして示し合わせたようなタイミングで次々と地面に落ちる。
 レンゲ曰くお人好しなフリックはその振動を感じて鳥たちに声をかけるのだが、それよりも早く鳥たちは落ちた実に群がっていき、小さな食事会が幕を開けた。
 薄い皮を気にせず啄むもの。
 小さなくちばしで器用に皮をむいて瑞々しい果肉を楽しむもの。
 一番大きな鳥などは、豪快にも丸ごと一つ実を飲み込んで満足げに飛び去っていってしまった。

「ああやって種を広げていくのね……」

 何となく何かを理解できた気分で見送るレンゲの肩に止まる青い鳥は、彼女の顔を見上げて小首を傾げてみせる。
 レンゲは食べないの? とでも言わんばかりだ。

「あー……アタシはいいわ。直接食べるよりは養分でいただくから。それよりアンタたちも実が落ちるの待ってたんでしょ? いつまでもこっちにいると全部食べ尽くされちゃっても知らないわよ」

 苦笑いのレンゲが促すと、青い鳥はピィ、と一声囀って食事会に加わりにいった。
 食事に集中している間は、鳥たちも打って変わって静かだ。
 やがて綺麗に実を食べ尽くした鳥たちは一羽、また一羽と飛び去っていき、いつもの青い鳥たちだけがその場に残った。

「レンゲハ鳥サンタチノ声、嫌ダッタ?」
「誰もそんなこと言ってないでしょ。……まあ、たまにはフリックも鳥の役に立てて良かったんじゃない?」
「ン。嬉シカッタ。……マタ来ルカナ?」
「さぁ? この木の寿命なんて知らないし……来年までこいつが元気だったら、また実をつけて似たようなことになるんじゃない?」
「ソウダネ。ソレモ、縁」

 言葉を交わしながら見上げた視線の先には、空の青にくっきりとした深緑の輪郭を描き出す楕円の葉。
 今さらながらあの実はどんな味だったのか、ほんの少しだけ気になるレンゲなのだった。
 それは初夏の2人に舞い降りた、小さな黄金がもたらしたほんの一時のしあわせ。

 ――鳥たちが食べ残した種から次々に育った木でちょっとした果樹園状態になったフリックの背中で、日照権を侵害されたレンゲが大いにぷんすかするのは、また別の話。

「ちょっと!? どう収拾付けるのよこれーっ!!」

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