幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
ドゥネーブの日々
ドゥネーブの日々
関連キャラクター:マルク・シリング
- 昼下がりの大事件
- 「……大変です、マルクさん!」
「ど、どうしたのリンディスさん? 何か事件でも……」
黒狼隊が集うドゥネーブの屋敷の書斎、窓際の定位置の椅子で読書するマルクは聞き慣れぬリンディスの上ずった声に本を閉じる。本に栞を入れ忘れたのは痛いが、普段こんな声を出さない彼女の珍しい姿はきっと一大事で――
「古本市が開催されているんです!」
「ん?」
だから古本市が――両手で拳を作り愛らしく熱弁するリンディスの姿は、なるほど一大事のよう。
「お恥ずかしい所をお見せしました……!」
顔から火が出んばかりに頬を赤くするリンディスを連れマルクが歩くのは、ドゥネーブの港の一角で。
近隣との貿易船に積まれていた古書を捌く為、突発の古本市が開かれていたのを知ったリンディスが読書仲間のマルクを誘ったのが事の顛末だったのだ。
「告知なしは流石に驚くものね。でも気付けて良かったよ」
並んだコンテナに積まれた書籍は、幻想のみならず他国のものも含まれているようで。目を輝かせ本を手に取るリンディスの横顔を眺め、マルクもそっと本を手に取る。
(他国の歴史書でもあれば勉強になりそうだ)
目についた本を捲っていれば――「どうしましょう」とリンディスのか細い声。
「ほ、欲しい本が沢山で持って帰れるか……!」
「なんだ。それなら大丈夫、僕も持っていくから」
突然の出会いは、独りの手では足りなくても―― 二人の両手で抱えれば、きっと大丈夫だから。 - 執筆:飯酒盃おさけ