PandoraPartyProject

幕間

地上と微睡みの狭間で

関連キャラクター:トスト・クェント

ふわふわ、雲の上
 いつの間にか、雲の上を歩いていた。どうして雲から落ちないのかは分からないけれど、足が沈むことはないし、ふわふわとした綿の上を歩いているように思えてしまう。

 近くに瞬くのは、無数の星々。どれも柔らかな輝きを放っていて、何だか穏やかな気持ちになる。その一つに手を伸ばしたくなって、――ほんとうに、掴めてしまった。

 首を傾げつつ手のひらを開いてみると、そこにあったのは金平糖だった。星のきらめきをそのまま口に含んでみると、ころりと甘い味が広がる。

 周りをよく見渡してみると、月はクッキーで出来ていたし、足元の雲は綿あめでできている。
 どうやら自分は、おいしい世界に迷い込んでしまったらしい。

 もう少し、この甘い場所を散策してみよう。そう思いながらトストは、そっと足を踏み出した。
執筆:椿叶
星空の道
 夜空のように青と黒が入り交じる闇の中、光り輝く道が出来る。

 正体はトストが歩こうとする、いくつもの星の道。
 動けば動くほど、彼を中心に星空の道が少しずつ出来上がって導かれていた。
 少しずつ動いて出来上がる道に、楽しさを覚えながら彼は進む。

 そんな星空の道はトストの行き先など気にすることなく、道を作り出してゆく。
 小さな道から長い道まで、多種多様に。
 気づけば、トストが歩いた分だけ枝分かれした道が増えていた。

 ひとつ、夢(ゆめ)。眠っている間だけに見える小さな道。
 ふたつ、幻想(ゆめ)。自分だけに見えている、本当にあるのかわからない幻の道。
 みっつ、虚構(ゆめ)。現実には無いとされている、虚ろの構造の道。
 よっつ、願望(ゆめ)。心の何処かに眠る、自分の持つ願いの道。

 星空の道がキラキラとトストを彩り輝かせる中、どれが夢で、どれが幻想で、どれが虚構で、どれが願望なのかをハッキリと覚えて歩く。
 何の道を歩いたにせよ、自分自身が変わることはないとわかっていたけれど……。

 この道には終わりはないと知ったのは、いつだっただろう。
 それはもう、よくわからない。

 今日も今日とて、トストは見る。
 紺青の闇に広がる星空(ゆめ)を。
転じた者が眠る澱み
 ……。
 あぁ、煩いなぁ。
 どうしてみんなそんなに争うだろう。
 争って、その先に何があるっていうんだろう。
 地上はどこも争いの音が絶えない。
 だからおれは、水の中にいる方が安らげるんだ。
 だって、地上では誰もおれを必要としないから。
 ここなら、誰もいない。求められることもないけれど、傷つくこともない。

 ……でも、ここはどこだろう。なんだか、水にしては暖かくて。赤黒くて。少し肌にまとわりつくようなこの感じ。
 不思議と、“今のおれ”には、不快感もなく。
 あぁそうだ。おれにはギフトがあったんだった。どうして忘れていたんだろう。
 思い出したら途端、視界の澱みが取れていく。
 赤いそれは、うっすらと見通せるようになり。
 周囲に沈んでいたのは、たくさんの同族“だったモノ”たちで。
 でもなぜだろう。それを見ても、おれはなにも感じなくて。
 適当に、沈むひとつを手に取って。その、色を失った瞳を覗き込んでみる。
 あぁ。そうだった。
 食べたのは、おれだった。

 そこに映るがらんどうの瞳と骨と皮だけの身体を見ても、心は凪いでいた。
執筆:ユキ
甘く、柔らかな
 うーんうーん。息苦しい。どうしてこんなに息苦しいんだ。
 息苦しい? それもまた何か違う気がする。全身を柔らかいもので圧迫されているような。
 トスト・クェントは唸りながらも目を覚ます。一面が山吹色のようなもので埋め尽くされている。ふわふわしたスポンジのようだが、それが全身を覆っているので非常に動きづらい。出来ても口の開閉だとか――。
「あむ」
 あ。口の中に入っちゃった。トストはその状態で固まった。
 手足が緩く拘束されているような状況なので口から出すこともできず、さりとてこのまま噛んでしまっていいのか。しかし噛み切らなければこのスポンジに口の中の水分をすべて持っていかれる!
「むぐ……ん?」
(甘い?)
 覚悟して食べたふわふわのスポンジは、噛めば噛むほど甘かった。というかこれ、水を吸収する方のスポンジじゃなくてお菓子のスポンジだ。
(なぁんだ)
 やけに納得が早いことに本人は気付かない。それどころか自分がオオサンショウウオケンタウロスの姿であることを"思い出し"、泳ぐようにしながらむしゃむしゃとスポンジを食べ始める。
 咀嚼しながらなのでものすごく早くはないが、スポンジだけを食べ続けている割に早い。お腹がイイ感じに膨れそうだ、というタイミングでトストはひょっこり天井を突き破った。
「……一面のカステラだ!!」
 そこに広がるのはどこまでも――地平線まで続くような、大きなカステラの上面。トストは今、カステラの中を泳いでいたのだ。
執筆:

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