PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

蒼剣幕間

関連キャラクター:ドラマ・ゲツク

Happy Birthday
●おめでドラ
「……」
 夜明けの月(インソムニア)は眠らない。
「……………」
 この世に遍く神秘を解き明かし、総ゆる叡智を貪るには人間の――幻想種の時間は短過ぎるから。
 殆ど睡眠を必要とせず、眠る事も無い彼女は今夜も部屋で漸く手に入れた貴重な書の一項をめくっていた。
「……ふむ」
 時折紙の擦れる音がする。
 形の良い眉は上下に動き、薄い唇から自然と漏れる声と頷きは無意識の内のものだった。彼女はこの叡智の捕食で心底から満たされているのだ。『食事』は彼女にとって殆ど全ての事柄に優先される重要事項であり、フィールドワークが随分と増えてしまった昨今においてもこの時間は格別なものだ。

 ――コン、コンと。

 木の扉がノックに鳴った。
「――――」
 ドラマが目を落としていたのはまさに彼女が興味深い、非常に重大な内容の書かれた項であった。

 コン、コンと。

 もう一度ノックがされた。
 愚者は経験から学び、賢者は歴史より学ぶという言葉があるが、書をパタンと閉じたドラマはその正解を半分だけだと思っている。
『もし歴史だけに答えを求めるのなら、ドラマ・ゲツクはここを一歩も動いてはならない』。
『叡智の捕食者は念願叶って得た書の捕食を、真夜中に女性の部屋を訪ねてくる無礼者の為に辞める事は無いのだ』。
(ああ、もう――)

 ――こんな時間に、誰が私を訪ねるというのでしょうか?

 椅子から立ち上がり、手櫛で軽く前髪を整えた彼女は「すぅ、はぁ」と深呼吸をしてドアの前に立った。
 蝶番が錆びた音を立てて、ドアが重くゆっくりと開かれた。
「――よう」
 ドラマの大きな赤い瞳の中に『彼』の姿が映り込んでいる。
 上目遣いでじっと見つめて、向こうが同じようにしてきたから……ドラマはわざとらしいと知りながら、小さく咳払いをした。
「……よう、ではありません。何時だと思っているのですか」
「夜の十二時だと思ってるけど?」
 良いとも言っていないのに、勝手に部屋に上がり込んだレオンにドラマは口をへの字にした。
 最近の彼は随分と自分勝手だ。少し前までなら、絶対に踏み込んで来なかった癖に――
「……」
「オマエ、何してんの」
「顔の体操です。放っておいて下さい」
『安全装置』の撤回に緩みそうになった頬にドラマは少し気合を入れた。
「すぅ、はぁ……」
「だから、何――」
「――深呼吸です。健康の為の」
 惚れた腫れたが遠い世界の出来事なら安心安全だったのに、身体はしょっちゅう自分(ドラマ)を裏切るものだから性質が悪い。
「ええと、コホン。それでレオン君」
「あん」
「夜の十二時に一体何を――」
 勝手にソファに座って持ってきた包みをごそごそし始めたレオンにドラマは向き直り、そう尋ねる。
「何をって、オマエ今日が誕生日でしょうが」
「――――あ……」
 忘れていた、訳ではない。
 ただ少し叡智の捕食に夢中になり過ぎていただけだ。ちょっと、そう。二、三日位前から……
 日が変わったという事は既に29日を迎えたという事で――やたらに器用なウィンクをしたレオンは二人分のグラスとシャンパンを持ってきたらしい。
「だから、乾杯しようぜ」
 少し頬に朱を差したドラマに彼は言う。
「――飲み比べて……ああ、罰ゲームは有りでも無しでもどっちでもいいけどね。
 勝っても負けても似たような事する予定だから」

 ――このやろう。
執筆:YAMIDEITEI

PAGETOPPAGEBOTTOM