PandoraPartyProject

幕間

蒼剣幕間

関連キャラクター:ドラマ・ゲツク

5/24
●最近犬系(違いますが!?)
 深夜のローレットに既に人気は減っていた。
 数える程しか残っていない酔客は赤ら顔で、『店員』もこの時間になれば呆れて帰る。
 つまる所、カウンターで呑み続けている連中は『セルフサービス』極まりなく、無為な時間を過ごしていた。
「……」
 テーブルに頬杖を突くドラマ・ゲツク(p3p000172)はそんな連中とは随分違う。
 持ち込んだ推理小説の新刊はとっくの昔に読み終えてしまった。
(……趣味では無かった筈なのですけど)
 昔はそういう小説の類は読まなかったのだけれど、誰かさんの好きなミステリ・シリーズだから――
 切っ掛けはそんな事で十分だったのだ。七冊も重ねたシリーズも、読み切ってしまったのだから我ながら呆れる他はない。
「……」
 相変わらずの酒場で似合わない少女が一人ちょこんと座っている。
 彼が――レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)が今日忙しいのは知っていたけれど、一日に一度も顔を見れないのは少し辛い。愉しくない。
「……………」
 顔を出さないかなあ、と考えてもう何時間か。
 食事も取って、少しお酒も呑んで、持ち込んだ本も読破して――日付すら変わってしまった。
「……来ないかなぁ」
 ポツリと呟いたドラマにぺたんと垂れた犬耳を幻視するのは難しくない。
「来たけど?」
 そしてそんな彼女の肩にポンと置かれた手の主を想像する事も簡単だ。
「……ふぇ!?」
 振り返ったドラマの頬にレオンの指がめり込んだ。
 実に、実に、実に。
 それは子供染みた悪戯だ。全く馬鹿馬鹿しい話だが何ともはや。
「大人気なく気配を殺して回り込むの辞めて貰っても構いませんか!?」
 けたけた笑う世界一の冒険者とやらがどれだけ意地悪かを教えてくれる――
執筆:YAMIDEITEI
Giselle
●第一幕
「――今日は留守だったのね」
 執務室のドアを叩いた来訪者はドラマ・ゲツク(p3p000172)にとって見慣れない女性だった。
「ちょっと出て来る、そうです」
「……お留守番? 貴方はローレットの――」
「はい。特異運命座標で、そのようなものです」
「……少し見ない間に随分可愛らしい子が好みになったのね、あの人は」
 年の頃は三十過ぎ程だろうか――長い髪、眼鏡をかけた知的な美人で体型はスレンダーながらに出る所は出ている。
 実に端的かつ偏った表現をするならそれは恐らく『レオン君のタイプ』に分類される風情だろうか。
 ……だからと言う訳ではないのだが、ドラマの胸は少しざわついた。
「ええ。そうですね。可愛いからデートしようと言われましたし」
 ドラマが留守番を託されたのは行きがかり上の出来事である。
 叡智の捕食者はかしこいので決して彼の仕事を邪魔して部屋に入り浸っている訳ではない。
 叡智の捕食者はかしこいのでそんな事は決まりきった話である。
 彼の所用の間、執務室に残されて――珍しい客と出会ったのは偶然である。
(第一、レオン君が悪いのです)
 神聖なローレットの執務室を何だと思っているのか?
 逢引用とでも思っているのか? 馬鹿なのか? 死ぬのか???
 部屋のソファで膝枕をしたり、仕事をしている彼を眺めていたり、部屋の隅で本を読んでいたり。
 叡智の捕食者は賢いが、森林火災のメンバーは記憶力に難点があるのでドラマはそんな事実は棚上げている。
 唯、何とも――これは恐らく予感なのだろうが――ドラマは不思議な位に『彼女』の事が気になっていた。
「レオンが何時戻るか分かる?」
「いいえ」
 ドラマは少しだけ不親切な答えをした。
 確信がないのは確かだから完全な嘘ではない。
 唯、恐らく『そんなにかからない』が正解だが、素直にそれを言う気にはなれなかったのだ。
「そう」と頷いた女性はそんなドラマの内心を知ってか知らずか、「出直すわ」と踵を返しかけた。
 返しかけた所で――
「そうそう」
「……?」
 ――半身だけを振り向いてドラマの顔をじっと見る。
「『踊り疲れて倒れないようにね』」
「……っ……!」
 余計なお世話だ、と言いかけてドラマは何とか留まった。
 彼女は恐らくは『敵』で、恐らくは『唯の敵』では無いのだとそう思った――
執筆:YAMIDEITEI
優勝しました!
「――レオン君!」
「はい」
「優勝しましたよ!
 ええ、レオン君の無茶なオーダー通りです。
 第一二百人近いエントリーが行われているのです。
 そもそもが優勝以外は全て罰走等という理不尽極まりない設定がおかしいのですが……
 かしこくかわいく優秀なレオン君の一番の弟子である私は、そんな一方的な期待に応えて優勝しましたとも!
 ふふん、レオン君! 私に何かする事があるのではありませんか!」
「……腕立て伏せ? 腹筋? 特別トレーニング?」
「違うでしょう!!!
 ……違うでしょう? 私、十回優勝したんですよ。
 その、その為だけではないですけど……レオン君の為にも頑張りました。
 たまには優しくしてくれたっていいではないですか……?」
「分かってるよ。じゃあ、何して欲しい?」
「……」
「……………」
「……褒めて下さい」
「オマエは何時も良くやってるよ」
「……なでなでだけでは足りないと思うのです。十回は結構偉業ではありませんか?」
「オマエは最高の弟子だよ」
「……ぎゅーは評価しますが、あと一声です」
「目を閉じてちょっと上を向いてますねぇ」
「……」←右画面端で↓→を押して待っている
「……………」
「あいた!? レオン君! デコピンしてどうするんですか、レオン君!」
「馬鹿な事してないで用意しなさいよ」
「ふぇ?」
「お祝い。勝つと思ってたからね。もう予約済んでるの」
「――――」
「不満?」
「……負けたら、他の人を誘おうと思ってたでしょう?」
「……」
「……あいたっ!? レオン君、酷いですよ!」
執筆:YAMIDEITEI
そめに頼まれたので
「……ところで」
「いたた……はい?」
「何か小耳に挟んだんだけどさ。
 オマエ、水着でアクティビティ(隠喩)するって聞いたんだけど」
「し ま せ ん が ?」
「は? オマエ俺の最高の一番弟子なんだろ?
 何で目の前の困難から逃げ出しちゃうの?
 俺の自慢の弟子なのに――俺の可愛いドラマなのに、お疲れ気味の俺の期待に応えてくんないの?」
「(吐きそうなアイコン)」
「そういえばオマエさ、大分前だけど決勝で小夜に負けたよな」
「本当にかなり前の擦りネタなのですが!?」
「心技体――フィジカルは走ってるからいいとして、技は中々小気味いい。
 後は精神力が足りないって話があったよな?」
「あ り ま せ ん け ど?」
「本当に?」
「叡智の捕食者は本来思考とメンタルコントールが真骨頂です。
 神秘とは魔術とは(うんちゃら)リュミエ様の教えは(かんちゃら)」
「試してみよう」
「――――!?」
「……れ、れれれれれれおんくん、ししししししんしが!
 とととととつぜんそういう行動に出るのは!
 い、如何なものかと思うのですが!?」
「頬にちゅーしただけじゃねーか。はい、修行決定。いってらっしゃい」
執筆:YAMIDEITEI
みみ
●よわい
「……」
「……………」
「……レオン君?」
「じっとして」
 正面からじっと見据えられ、骨ばった手が頬に触れた時。
 ドラマ・ゲツク(p3p000172)は自身の体温が何分か跳ね上がったのを自覚した。
 色素の薄い肌に余りにハッキリと現れる紅潮――血の気ばかりが恨めしい。
 すっかり形の良い眉をハの字にした――困り顔のドラマは上手くものを言えずに口の中でもごつくばかりだった。
(……レオン君、急にどうしたのでしょう?)
 発端は何処だっただろうか。
 これは何時もと同じ胡乱な時間の筈だったのに。
『満ち足りていて物足りない何時も通りの日常だったに違いないのに』
「ドラマ――」
 自身の目をじっと覗き込むくすんだブルーはそんな何時もよりもずっと深い。
 レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)に溺れそうになる位に見つめられれば、やはりドラマの胸は高鳴った。
 こんなの、どうせ碌な結末じゃないのに。ぜったいに。
「耳、いくぞ」
 ほら、やっぱり!
 膝枕をして世話を焼いてやる事はある。
 だが、自分がされた事は無い。今日という日としおがあんな事をしなかったら。
 真夜中に奴がそれを察知したりしなかったらこんな事は無かったに違いないのに。
「……っ……」
 耳(じゃくてん)をまさぐる冷たい棒の感触にドラマの背筋がびくん、と跳ねた。
「じっとして」と囁くバリトンは実に無意味に耳元で、吐息を感じるような距離こそが今ばかりは恨めしい。
「……、っ、ぁ……っ……」
 そういうの、クソ依頼でやる予定ではないのですか???
 かしこいえいちのほしょくしゃが頭の隅で囁いた。
 しかし、そうした後で彼女は思い直す。
(――多分それは。クソ幕間でも同じ事なのでした……)

 ――えいちのほしょくしゃはみみがよわい。そんなことはおおむねだれでもしっている。
執筆:YAMIDEITEI
ぽっきぃげーむ
「……」
「……………」
「成る程、今こういう遊びが流行ってるのか」
「実に益体もない事です。そのような理由を付けずとも求むるならば素直に求めれば良いではありませんか」
「成る程」
「……」
「ですが、レオン君は面白がりです。
 こういう悪趣味なものがお好きだと思いまして、一応用意してみました」
「用意」
「一応、です!」
「成る程」
「……」
「……………」
「……それで、どうなのですか。
 レオン君よりずっと年上の叡智の幻想種としては市井の悪ふざけ等! 非常に! どうでも良いのですが!
 困ったレオン君がどうしてもというならば付き合わないではないのですが?」
「どうしても」
「……ふぇ」
「ほら、付き合えよ」
「しょ、しょうがない人ですね!!! 仕方なく、ですからね!」

※このあとぼてくりまわされた。
執筆:YAMIDEITEI
Take2
「……」
「……………」
「……………………」
「れほんくん?」
「何ですか、ドラマちゃん」
「ほふいふとき、しげしげながめてうごかないのはじょへいにしふれいではありまふぇんか?」
「何処で覚えてきた」
「へっちのほしょくしゃははんてながたかいので」
「……」
「……………」
「へっちの捕食者は賢いもんな」
「たいをかんじまふが……
 ……れほんくんは、きらいですか?」

 オラ! ここ! ここ! こーこ!

「……なーんか負けた気がすんだけどな」
「ふふ。はちましたから。さあ、どうぞ!」
執筆:YAMIDEITEI
いろ。
「オマエさ、赤いよな」
「はんでふか、やぶからぼうに」
「……オマエ、良く食べるようになったよな」
「むぐ。これは人の世を、市井を知る為の一環でもあるのですよ。
 第一レオン君だって言ったではないですか、『オマエは経験が足りない』とかなんとか……
 ですから、この鯛焼きは叡智の捕食。必要コストという訳ですよ」
「まぁ、喰ってるの可愛いからいいけどさ」
「……かわ」
「いい、だろ。動物みたいで」
「わざと膨らませるの辞めて貰って良いですか!
 ……それで、本題は何なのです。『赤い』とは。
 確かに私は赤い衣装を好む事が多いですが……その事でしょうか」
「うん。オマエどっちかっていうと赤いな、と思って」
「……単に好きなだけなのですが、何か問題が……」
「……」
「……………」
「…………………」
(……ひょっとして、明らかにテーマカラーが逆なのを気にしているとか。
 まさかレオン君はそんな事を気にしないでしょうが、確かに蒼剣と赤犬としてお二人は有名で……)
「何かアイツ寄りみたいで悔しいじゃん」
(ひょっとしたらだったー!?)
「……えっと、赤い衣装はお嫌いですか?」
「いいや。可愛いから好きだよ」
「かわ」
「でもたまには青系も着ないかなあと思ってさ」
「……け、検討しておきます」

つ「https://rev1.reversion.jp/illust/illust/73546」
執筆:YAMIDEITEI
本来は
「今、何か落としましたねぇ」
「……! っ……!?」
「いやはや、これは」
「……」
「これはこれは」
「……………」
「愛されてますねぇ」
「……愛してますけど」
「……」
「……………」
「言っておいて微妙に困るの辞めて貰えますか!?」
「こんなもん何処で手に入れたんだか」
「……それは、その。有志の方が」
「やっぱ若い方がいい?」
「っ……えぇ……えぇ! こちらの方が本来の私好みなのでしょう!!」
「『本来は』」
「~~~~っ……新年早々……!」
「実際は?」
「……ばかです。とんちきです。だいきらいです」
「それで?」
「だらしないです。なまけものです。凡そ、誠実さを持ち合わせていません!」
「ほうほう」
「私の物語にはそんなのなくて――こっちの方がいい訳じゃ、絶対なくて」
「うんうん」
「……………でも、きっと。もう、こうじゃなきゃ駄目なんです」
「良く出来ました」
執筆:YAMIDEITEI
グルメ・ゲツク
「オマエさあ。意外と良く食うよな」
「ふぁんれふか、やぶからぼうに」
「幻想種って少食のイメージっていうかさ。
 草とか食ってそうな? そんな感じかと思ってたんだけど」
「失礼な! 果物とか木の実とか自然の恵みを少しずつ頂く謙虚な種族ですよ!」
「オマエ、すっかり肉とかチーズとか……
 動物性タンパク的な雑食に染まってるじゃない」
「……所変われば品変わる。郷に入りては郷に従う。
 それもまた謙虚にして知的なる幻想種の振る舞いとして正しいもの」
「ほう」
「人間種の食文化に合わせているに過ぎないのです」
「思えばあんなにちっこかったのがこんなに育ったしなぁ」
「……子供扱いが複雑なのですが」
「いや、子供扱いってより……
 あっちこっち実に育って嬉しいと言うか、役得って言うか」
「……………即物的な視線と評価も微妙なのですが!」
「でも、されなかったらされなかったで膨れるだろ?」
「……」
「……………」
「分かっているなら聞かない方が紳士的だと思いますね!」
「まあまあ。ほら、また来たからもっと食べな。どんどん食べな」
「……」
「……………?」
「私はレオン君より年上のお姉さんですが」
「はい」
「年下(っぽい扱いをする相手)にばかり沢山食べさせようとするのは加齢傾向の極みですよ!」
「あ、痛ぇ……」
「ふふ。だから付き合って下さいね。胃にもたれるなんて言わず」
「仕返ししてるだろ、オマエ」
「そんな事はありません。美味しいものは一緒に食べた方が美味しいのです。
 ほら、何より私は『育ち盛り』ですからね!」
執筆:YAMIDEITEI
勝ちました
「お疲れさん」
 控室に戻った時、一番最初に見た顔はドラマが一番期待した人物のものだった。
 関係者席に我が物顔でふんぞり返るレオンは相変わらず偉そうな顔をして――激戦を終えたドラマを出迎えたものだった。
「……大変でしたよ!」
 試合直前に変に意識をさせるものだから。
 以前に同じようなプレッシャーを貰った時はまるで足が動かなくなったものだ。
 大勢の強豪が集まる闘技大会で「優勝以外は罰ゲーム」等と宣う酷い師匠はあの時もけらけらと笑ってドラマの抗議を聞き流していた。
 しかし、優勝の賜杯を掲げて『世界一の冒険者(だいすきなひと)』に出迎えられるのは格別なものだった。
 難関を突破がした故にドラマの胸にも高揚がある。
(今日こそは、今日こそは!)
 意地悪な男も素直に認めるに違いない。
 たっぷりと甘えてやるのだ。我儘を聞かせてやるのだ。
 ……勿論、あんまり素直過ぎても恥ずかしさが勝るから、一つまみ。ドラマらしさを添えるのを忘れる事は無く。
「……コホン」
 脳裏を過った甘やかな妄想を首を振って追い払う。
(……汗臭かったりしないでしょうか。い、衣装もこれでは……)
 エルスにも強烈な矜持があった事は間違いない。
 実績では自分の方が上ではあったが、実際に危ないシーンもあったのだ。
『蒼剣』と『赤犬』の代理戦争の意味を分からないドラマではない。
(……ええい、これはもうどうしようもありません! 勝ったのです、堂々と!)
 乙女心は早々のお褒めの言葉を欲していた。故にドラマは殆ど無意識の内に身形を整えている。
 ゆっくりと近付き、一度立ち止まって息を整えてから……
「まぁ当然ですが、あなたの弟子が勝ちましたよ!」
 これ以上ない位に晴れやかに、そして彼女の性格からは信じられない位に無邪気に勝ち誇った顔をした。
「良くやった」
 椅子に逆さに座り、背もたれに正面から姿勢を預け。
 見上げる格好でそう言ったレオンは立ち上がり、
「いい試合だったよ」
『今度は見下ろす格好で』ドラマに告げた。
「……と、当然と言ったでしょう! レオン君の名誉の為にも負けられない戦いだったのでしょう?」
「それからオマエのお仕置き回避の為にも、ね」
「……さ、最初から条件が理不尽なんですよ!
 レオン君は……こんなに素直で可愛い弟子を苛めて楽しむ趣味でもあるんですか!?」
「いいや。弟子を取った事自体無いが、本筋なら違うな」
「……」
「だって考えてみろよ。わざわざ弟子を取って……
 しかもこの場合『可愛い女の子』だろ?
 苛める理由ねぇだろ、普通に。例えば華蓮が弟子だったって考えてみなよ。
 オマエ、俺が苛めてる姿が想像出来るか?」
「………………」
 ドラマは頬をぷっくりと膨らめた。
 今のレオンの発言は――どうせわざとに決まっている――二つばかり『とても良く』。
 二つばかり『とても悪い』。そしてもう一つは――である。
 即ち、要するに。
(弟子を取らないレオン君が、私を教えてくれたのは)
 運命なのだろう、これもきっと。
(可愛い女の子……)
 口で言われた事は多いが好きな人に改めてそう言われて嫌がる女の子も居ないだろう。
 でも。
「他の女の子の名前を出して、斯様な理不尽を開き直るとは!
 レオン君はつくづく悪党というものなのですよ!」
「その顔が見たかったんだよ」
「……まったく、もう」
 最後の一つは『オマエだから特別』だ。
 ドラマは疲れた身体で心底から溜息を吐く。
 結局、怒り切れない理由なんて知れていた。
『本当に嫌だと思っていないのだから、そんな事は自分が勝つ位に当たり前』に違いないのだ。
「……で?」
「はい?」
「ご褒美だよ、ご褒美」
 笑うレオンはドラマの手を取る。
「……!?」
「何なりとエスコートの一つでもいたしましょう、お姫様?」
 冗句めいて手の甲にキスを落としたレオンの目は笑っている。
「この――!」
 明らかに遊んでいるが、顔を真っ赤にしたドラマはそれ以上何も言えなかった。
執筆:YAMIDEITEI
ドラマ主演
「レオン君がこんな事をしているとは意外でした」
「オマエ、俺を何だと思ってるの?」
「我儘で適当で自分本位でだらしがなくて仕方ない人だと思っています」
「……オマエね」
(案外優しくて、たまに素敵で、我ながら嫌になる位大好きな人だと思っていますよ)
「あん?」
「いいえ、何でも。
 兎に角、これは余りレオン君的ではないのです。
 孤児院の子供達に公演をする劇団のスポンサーだなんて。
 明日は槍でも降るのでしょうか。あ、それとも可愛い子でも居たからでしょうか!」
「オマエね」
「思い返すは五年前――」
「――わかった この話はやめよう。ハイ!! やめやめ」
「……勝ちました」
「勝ったはいいけどよ……
 まぁ、『世界的な冒険者』とか『世界最大のギルド』ってのも大変なの。
 ある程度イメージ商売も必要っていうか、世知辛いね」
「そういうものなのですねぇ」
「あ……」
「……?」
「アレ、主演の子。体調不良じゃないか? 顔色が真っ青だ」
「大変です! まだ公演は残っているのに……」
「……うーん」
「……?」
「よし、オマエ代わりにやれ」
「!?」
「オマエ、記憶力スゲーいいだろ。今すぐ台本頭に入れろ。それしかない」
「話が全く繋がっていないのですが!?」
「ローレット協賛のイベントって事は失敗は俺の問題になる。
 そして俺の隣には優秀な弟子がいる。これは間違いないだろう」
「話が通じない!?」
「頼むよ、ドラマ」
「……」
「……………」
「……お姫様の役ですよね?」
「ああ」
「……読み合わせ、レオン君が付き合ってくれるなら、考えます」
執筆:YAMIDEITEI
3/14
●もぐもぐ
「そわそわ」
「……」
「そわそわそわ……」
「……………」
「そわそわそわ!」
「……………………」
「レオン君は! 何をしているんですか!!!」
「仕事してるんだが?」
「……それはお疲れ様です!
 しかし、それはそれとして! 今日は何か特別な用件とかないでしょうか!?
 主にこうしてちょっとおめかしして、いい子でソファに座って待っている可愛い弟子等に!」
「ああ、うん」
「『ああ、うん』ではありませんが――この際、そこは見ないふりをしておいてあげます!
 いいですか、レオン君! 用件がありますよね。
 過日、灰冠の日に真心を可愛らしくラッピングした可愛い女の子に伝えるべき言葉が!」
「製菓業界の陰謀とか言うタイプかと思ってた」
「人間的な――世俗に染まる幻想種ではありませんが、グラクロは深緑発祥だから大いにセーフなのです。
 それで、レオン君は……っ……!?」
「何、驚いてんの」
「気配を殺して近付くからです!
 と言うか、相変わらず世界一の冒険者のスキルを無駄に使いますね!?」
「無駄じゃないよ」
「……え?」
「オマエが驚くもの。一番有用だろ?」
「――――」
「ほら、赤くなった。肌が白いからすぐ分かる。
 今度は髪にキスでもして言おうか。どんな顔するかな?」
「既にしているでしょうが!!!」
「――あら、そうだっけ?」
(……こ、この男は……!)
「難しい子ですねえ」
「……そうでもないですよ」
「仕事を続けたらそれはそれで怒る癖に」
「……まぁ」
「でも、それはそれで納得もする。仕事してる俺、好きだもんな」
「……………まぁ」
「安心しな。『お返し』は予定に入れてるよ。
 でも、ちょっと忙しい。だから先渡しで――」
「――へ? あ、んっ……!?」

(暫くお待ち下さい(Now Dorama freezing......))

「……ぷはっ! ちょ、ちょちょちょちょっと最近雑じゃありませんか!?」
「そう?」
「そもそも! それをお返しとはどれだけ自惚れなのですか!?
 割とレオン君ばかりが得をしているのではないですか!?」
「駄目でしたかね?」
「――いや、悪くはな……違います。そういう話ではありません!
 駄目とかいいとか言っているんじゃあないんですよ!!!」

https://rev1.reversion.jp/illust/illust/77461
執筆:YAMIDEITEI
Happy Birthday
●おめでドラ
「……」
 夜明けの月(インソムニア)は眠らない。
「……………」
 この世に遍く神秘を解き明かし、総ゆる叡智を貪るには人間の――幻想種の時間は短過ぎるから。
 殆ど睡眠を必要とせず、眠る事も無い彼女は今夜も部屋で漸く手に入れた貴重な書の一項をめくっていた。
「……ふむ」
 時折紙の擦れる音がする。
 形の良い眉は上下に動き、薄い唇から自然と漏れる声と頷きは無意識の内のものだった。彼女はこの叡智の捕食で心底から満たされているのだ。『食事』は彼女にとって殆ど全ての事柄に優先される重要事項であり、フィールドワークが随分と増えてしまった昨今においてもこの時間は格別なものだ。

 ――コン、コンと。

 木の扉がノックに鳴った。
「――――」
 ドラマが目を落としていたのはまさに彼女が興味深い、非常に重大な内容の書かれた項であった。

 コン、コンと。

 もう一度ノックがされた。
 愚者は経験から学び、賢者は歴史より学ぶという言葉があるが、書をパタンと閉じたドラマはその正解を半分だけだと思っている。
『もし歴史だけに答えを求めるのなら、ドラマ・ゲツクはここを一歩も動いてはならない』。
『叡智の捕食者は念願叶って得た書の捕食を、真夜中に女性の部屋を訪ねてくる無礼者の為に辞める事は無いのだ』。
(ああ、もう――)

 ――こんな時間に、誰が私を訪ねるというのでしょうか?

 椅子から立ち上がり、手櫛で軽く前髪を整えた彼女は「すぅ、はぁ」と深呼吸をしてドアの前に立った。
 蝶番が錆びた音を立てて、ドアが重くゆっくりと開かれた。
「――よう」
 ドラマの大きな赤い瞳の中に『彼』の姿が映り込んでいる。
 上目遣いでじっと見つめて、向こうが同じようにしてきたから……ドラマはわざとらしいと知りながら、小さく咳払いをした。
「……よう、ではありません。何時だと思っているのですか」
「夜の十二時だと思ってるけど?」
 良いとも言っていないのに、勝手に部屋に上がり込んだレオンにドラマは口をへの字にした。
 最近の彼は随分と自分勝手だ。少し前までなら、絶対に踏み込んで来なかった癖に――
「……」
「オマエ、何してんの」
「顔の体操です。放っておいて下さい」
『安全装置』の撤回に緩みそうになった頬にドラマは少し気合を入れた。
「すぅ、はぁ……」
「だから、何――」
「――深呼吸です。健康の為の」
 惚れた腫れたが遠い世界の出来事なら安心安全だったのに、身体はしょっちゅう自分(ドラマ)を裏切るものだから性質が悪い。
「ええと、コホン。それでレオン君」
「あん」
「夜の十二時に一体何を――」
 勝手にソファに座って持ってきた包みをごそごそし始めたレオンにドラマは向き直り、そう尋ねる。
「何をって、オマエ今日が誕生日でしょうが」
「――――あ……」
 忘れていた、訳ではない。
 ただ少し叡智の捕食に夢中になり過ぎていただけだ。ちょっと、そう。二、三日位前から……
 日が変わったという事は既に29日を迎えたという事で――やたらに器用なウィンクをしたレオンは二人分のグラスとシャンパンを持ってきたらしい。
「だから、乾杯しようぜ」
 少し頬に朱を差したドラマに彼は言う。
「――飲み比べて……ああ、罰ゲームは有りでも無しでもどっちでもいいけどね。
 勝っても負けても似たような事する予定だから」

 ――このやろう。
執筆:YAMIDEITEI
追加ルール
●戦略家
「あの、レオン君」
「何だい、ドラマ君」
「このタイミングの通知に碌な予感を感じないのですが」
「いきなりあんまりな発言をするじゃないか?」
「……今更でしょう。こんな空間」
「いやいや、捨てたものじゃないよ。人生は喜劇と言うじゃないか、ドラマ君」
(……その喜劇にジャイアントスイングされている立場になって欲しいのですが……)
「閑話休題。何でもシラスを『潰した』らしいじゃないか」
「人聞きが悪いですね!?
 友人の成人のお祝いに――ルール通りチェスをしただけですよ!」
「何だっけ。駒を取った方がそのグラスを開けるんだっけ」
「成人の余興としては素敵でしょう?」
「『観戦』してた奴曰く、先に攻めさせて呑ませた後、華麗に逆転してみせたとか」
「叡智の捕食者はかしこいので!」
「105――じゃない106歳らしい老獪さだな」
「圧勝でしたよ。当然ですが」←えっへん、みたいな顔をしている
「特に記念日じゃあないが――そういや誕生日が過ぎたのはオマエも同じだったじゃないか」
「そ、そうですね」←はいきたーみたいな顔をした
「俺ともやろうぜ。飲兵衛チェス」
「……ええー……」
「そのままじゃ芸が無いからな。盛り上げる為に追加ルールを設定しよう」
「……………」←吐きそうなアイコン
「駒を取った奴が呑む、のは従前通り。吞ませ方は――」

(自分の唇をちょんちょんと突いている)

「――――」
「いいゲームになりそうじゃん?」
「友人の成人をお祝いする企画が悪徳と退廃の極みのようなゲームになったのですけど!?」
「勝てばいいじゃない」
「下手に勝ったら……わ、私から……」
「そうだね」
「……………」
「先手どっちにする?」
「それは私で!」←チェスは先手が有利。負けず嫌い

※尚、悪徳の実施は兎も角、勝敗は乙女の情緒が破壊された結果、33-4だったという
執筆:YAMIDEITEI
ドラマじゃない!(本当の事さ)
●ホントの事さ!
「あの、レオン君」
「何だい、ドラマ君」
「このタイミングの通知に碌な予感を感じないのですが」
「実に華麗な使い回しだね、この冒頭は」
「自覚していてやるの辞めて貰って構いませんか???」
「それはそうとドラマ君」
「何ですか、レオン君」
「ローレットでは最近、一つの事業を展開していてね。
 巷の流行を抑えつつ、特異運命座標のイメージアップを行い、ローレットの経営をより安定化させる絶妙な施策なんだが」
「嫌です」
「……早くない?」
「嫌です!!!
 どうせ私にも例のヒーリング何とかシリーズをやらせようって魂胆でしょう!?
 VDMでCDを手売りしたのは絶対に忘れませんからね!」
(色々辛い事があったんだなあ……)
「それに……」
「それに?」
「ボイスシリーズのテーマは『しょうがない人』でしたっけ?
 キャッチは『疲れた大人に送る至極にダメになるボイス集』。
 これ、世間のニーズもさる事ながら、レオン君の気分じゃないですか?」
「膨れおる」
「それはそうでしょう!」
「オマエが居るのに?」
「そもそも癒せって……
 私は野放図に不特定多数に、誰にでもなんてする気はありません。
 もし仮に私が――本当に仮にですけど、もう本当にどうしようもなくしょうがない人の近くに居るとして。
 そこに居るのはその人がしょうがないからじゃないんです。
 分かりますか? 『そういう問題ではないのです』。
 冷静に考えたら自分の壊れ具合に嫌にもなりますよ。
 不誠実とちゃらんぽらんが服を着て出歩いている――意地悪ばかりが達者な人なんて。
 王子様のフリもしてくれない、そんな人なんて。
『しょうがない』で済ますにはあんまりに違いないじゃないですか?
 ……でも、でも。理屈で解決出来るのなら最初から苦労はしません。
 そういう時間はもうきっとずっと昔に過ぎてしまって――私は長い時間の中で何度もこうして頬を膨らめるんです。
 どうです? 癒されるでしょう?
『貴方』はきっとそんな私を見て――そうして目を細めているでしょう。
 でも、覚悟していて下さいね? 『特異運命座標』は可能性の獣ですから?
『窮鼠猫を噛む』何てことわざを他人事と思っていればいいんです。
 大好きですよ、『レオン君』。昨日も今日も明日も、きっとずっと先まで――貴方はそんな顔をしていればいいんです」
「……」
「……………」
「成る程、こりゃあ『使えない』な」
「使いたいですか? 本当に。
 私の素直な気持ちを、赤の他人向けに。他ならないレオン君が?」
「……」
「……………」
「いや、全然」
「勝ちました」
「オマエ、ねぇ……」
「勝ちました!」
「オマエね! あと字数がほぼ尽きたよ、ドラマ君!」
執筆:YAMIDEITEI
濡れドラマ
●通り雨
(酷い目に遭いました……)
 禍福は糾える縄の如しという。
 先程まで晴れていたのに急な雨に降られた今日は丁度そんな感じだった。
『ほんの三十分もずれていれば濡れ鼠になる事なんて無かったのに』。
 帰り道の僅かな時間、土砂降りを叩き付けられてしまえば傘も無いのだ。それは酷い有様になる。
「……戻りました」
 入り口で水滴を落として、最低限だけの身繕いをしてドラマは嘆息する。
 一応、それなりに敷居の高い部屋な筈だが少なくとも彼女はその例外にある。
 足繫く通う内にすっかり誰にも珍しいものと見られなくなった『執務室』への帰還はまさに努力の賜物だ。
(……こんな間の悪い時に用事を頼まれる位ですからね!)
 やれ『修行』だ何だと理由をつけて気軽に適当にお願いをする部屋の主に可愛らしい恨み節を垂れながらドラマはその扉を開いた。
「おかえり」
「……」
「お、か、え、り」
「……はい。只今戻りました」
 机の上、手元の書類に視線を落としたままのレオンは戻ってきたドラマを日常の一部と見做しているように見えた。
(ああ、もう!)
 口をへの字にしたドラマは憤慨する。
 彼はこと『女の子』に対しては如才のない男であるからして、余程の相手でない限りはそういう雑な対応を取る事は無い。
(……ああ、もう……)
 憤慨してから頬が緩む姿は百面相のようだ。
『彼はこと女の子に対しては実に如才ない男であるからして、余程の相手でない限りはそういう雑な対応を取る事は無いのだ』。
「雨、平気だった?」
「『見ての通り』やられました。濡れ鼠です」
 可愛いドラマは些細な事に一喜一憂して、可愛くないドラマは皮肉気に一撃をやり返す。
「ん」
「……?」
 そんなやり取りに頷いたレオンの調子を見てドラマは怪訝な顔をした。
「おいで」
 漸く顔を上げたレオンは気付けば大きなタオルを持っていた。
「……分かっていたような顔をして!」
「降り出したから用意して貰っといたんだよ」
 立ち上がったレオンがソファに座らされたドラマの後ろに立つ。
 ふわふわのタオルが濡れた髪をわしわしと拭く。
 やり方は実に男らしく雑で、同時に可能な限りその不器用を隠そうとする優しさを帯びていた。
「……」
「……………」
「……元はと言えばレオン君のお使いですからね?」
「そうだよ」
「だから、甘やかして貰うのは……当然の権利なのです」
「そうだな」
 頬を赤くしたドラマの耳はぴくぴく動く。
 禍福は糾える縄の如し――こんな一幕は、何も特別ではないのだけれども。
執筆:YAMIDEITEI
マッチポンプ
●くびわ
「……」
「……………」
「……沈黙が既にもうイヤなのですが……」
「いやあ……」
「いやあではありません」
「そんな趣味があったとは」
「ある訳がないでしょう!?」
「いや、いいと思うよ。うん。刺激的で」
「分かって言ってますよね!? 報告書!!!」
「勿論」
(この野郎……)
「でもさあ」
「……?」
「どうせなら俺につけさせてくれたら良かったのに」
「!?」
「似合わないタイプにかけるのがロマンと言うか。跳ねっ返りだし」
「悪趣味な! 男の人って何時もそうですね!?」
「勇気のないオマージュだ」
「……そんな趣味があったんですか?」
「まあ、程々に。たまには?」
「……」
「……………」
「……な、なにじっと見てるんですか! ダメに決まっているでしょう!?」
「分かってるけど」
「けど?」
「なーんか腹立つんだよなあ。『それ』は」
「……ロマンなのに?」
「他所が勝手につけたら、ね」
「――――」

※マッチポンプ
執筆:YAMIDEITEI
ゆめ
●きょうじゅつ
「あのさ」
「何ですか?」
「今日、夢見たのよ」
「はあ……」
「オマエの夢」
「!!!」
「聞きたい?」
「……聞いてあげなくもありません」
「じゃあ辞めよう」
「……」
「……………」
「……………………」
「分かったってば。オマエの夢ね、何かすげぇ病んでた」
「いきなり夢も希望もない事言われたのですが……」
「病みまくってて、大変で」
「はあ。何したんです? レオン君」
「犯人扱いかよ」
「犯人でしょう? それで?」
「〇〇を××して、△△が□×で……」
「……」
「★◎を▼▲したらすげぇ事になってさ。目が完全に据わってた。
 そう、丁度今のオマエみたいな感じに」
「レオン君」
「はい」
「私はそんなに病んだりしませんよ」
「だよな、流石怜悧冷静、叡智の捕食者。俺の弟子」
「はい。レオン君がかような行状に及べば」
「及べば」
「平和と社会正義を愛する幻想種として冷静に『討伐』しますから」
執筆:YAMIDEITEI

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