幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
蒼剣幕間
蒼剣幕間
関連キャラクター:ドラマ・ゲツク
- 勝ちました
- 「お疲れさん」
控室に戻った時、一番最初に見た顔はドラマが一番期待した人物のものだった。
関係者席に我が物顔でふんぞり返るレオンは相変わらず偉そうな顔をして――激戦を終えたドラマを出迎えたものだった。
「……大変でしたよ!」
試合直前に変に意識をさせるものだから。
以前に同じようなプレッシャーを貰った時はまるで足が動かなくなったものだ。
大勢の強豪が集まる闘技大会で「優勝以外は罰ゲーム」等と宣う酷い師匠はあの時もけらけらと笑ってドラマの抗議を聞き流していた。
しかし、優勝の賜杯を掲げて『世界一の冒険者(だいすきなひと)』に出迎えられるのは格別なものだった。
難関を突破がした故にドラマの胸にも高揚がある。
(今日こそは、今日こそは!)
意地悪な男も素直に認めるに違いない。
たっぷりと甘えてやるのだ。我儘を聞かせてやるのだ。
……勿論、あんまり素直過ぎても恥ずかしさが勝るから、一つまみ。ドラマらしさを添えるのを忘れる事は無く。
「……コホン」
脳裏を過った甘やかな妄想を首を振って追い払う。
(……汗臭かったりしないでしょうか。い、衣装もこれでは……)
エルスにも強烈な矜持があった事は間違いない。
実績では自分の方が上ではあったが、実際に危ないシーンもあったのだ。
『蒼剣』と『赤犬』の代理戦争の意味を分からないドラマではない。
(……ええい、これはもうどうしようもありません! 勝ったのです、堂々と!)
乙女心は早々のお褒めの言葉を欲していた。故にドラマは殆ど無意識の内に身形を整えている。
ゆっくりと近付き、一度立ち止まって息を整えてから……
「まぁ当然ですが、あなたの弟子が勝ちましたよ!」
これ以上ない位に晴れやかに、そして彼女の性格からは信じられない位に無邪気に勝ち誇った顔をした。
「良くやった」
椅子に逆さに座り、背もたれに正面から姿勢を預け。
見上げる格好でそう言ったレオンは立ち上がり、
「いい試合だったよ」
『今度は見下ろす格好で』ドラマに告げた。
「……と、当然と言ったでしょう! レオン君の名誉の為にも負けられない戦いだったのでしょう?」
「それからオマエのお仕置き回避の為にも、ね」
「……さ、最初から条件が理不尽なんですよ!
レオン君は……こんなに素直で可愛い弟子を苛めて楽しむ趣味でもあるんですか!?」
「いいや。弟子を取った事自体無いが、本筋なら違うな」
「……」
「だって考えてみろよ。わざわざ弟子を取って……
しかもこの場合『可愛い女の子』だろ?
苛める理由ねぇだろ、普通に。例えば華蓮が弟子だったって考えてみなよ。
オマエ、俺が苛めてる姿が想像出来るか?」
「………………」
ドラマは頬をぷっくりと膨らめた。
今のレオンの発言は――どうせわざとに決まっている――二つばかり『とても良く』。
二つばかり『とても悪い』。そしてもう一つは――である。
即ち、要するに。
(弟子を取らないレオン君が、私を教えてくれたのは)
運命なのだろう、これもきっと。
(可愛い女の子……)
口で言われた事は多いが好きな人に改めてそう言われて嫌がる女の子も居ないだろう。
でも。
「他の女の子の名前を出して、斯様な理不尽を開き直るとは!
レオン君はつくづく悪党というものなのですよ!」
「その顔が見たかったんだよ」
「……まったく、もう」
最後の一つは『オマエだから特別』だ。
ドラマは疲れた身体で心底から溜息を吐く。
結局、怒り切れない理由なんて知れていた。
『本当に嫌だと思っていないのだから、そんな事は自分が勝つ位に当たり前』に違いないのだ。
「……で?」
「はい?」
「ご褒美だよ、ご褒美」
笑うレオンはドラマの手を取る。
「……!?」
「何なりとエスコートの一つでもいたしましょう、お姫様?」
冗句めいて手の甲にキスを落としたレオンの目は笑っている。
「この――!」
明らかに遊んでいるが、顔を真っ赤にしたドラマはそれ以上何も言えなかった。 - 執筆:YAMIDEITEI