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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

蒼剣幕間

関連キャラクター:ドラマ・ゲツク

濡れドラマ
●通り雨
(酷い目に遭いました……)
 禍福は糾える縄の如しという。
 先程まで晴れていたのに急な雨に降られた今日は丁度そんな感じだった。
『ほんの三十分もずれていれば濡れ鼠になる事なんて無かったのに』。
 帰り道の僅かな時間、土砂降りを叩き付けられてしまえば傘も無いのだ。それは酷い有様になる。
「……戻りました」
 入り口で水滴を落として、最低限だけの身繕いをしてドラマは嘆息する。
 一応、それなりに敷居の高い部屋な筈だが少なくとも彼女はその例外にある。
 足繫く通う内にすっかり誰にも珍しいものと見られなくなった『執務室』への帰還はまさに努力の賜物だ。
(……こんな間の悪い時に用事を頼まれる位ですからね!)
 やれ『修行』だ何だと理由をつけて気軽に適当にお願いをする部屋の主に可愛らしい恨み節を垂れながらドラマはその扉を開いた。
「おかえり」
「……」
「お、か、え、り」
「……はい。只今戻りました」
 机の上、手元の書類に視線を落としたままのレオンは戻ってきたドラマを日常の一部と見做しているように見えた。
(ああ、もう!)
 口をへの字にしたドラマは憤慨する。
 彼はこと『女の子』に対しては如才のない男であるからして、余程の相手でない限りはそういう雑な対応を取る事は無い。
(……ああ、もう……)
 憤慨してから頬が緩む姿は百面相のようだ。
『彼はこと女の子に対しては実に如才ない男であるからして、余程の相手でない限りはそういう雑な対応を取る事は無いのだ』。
「雨、平気だった?」
「『見ての通り』やられました。濡れ鼠です」
 可愛いドラマは些細な事に一喜一憂して、可愛くないドラマは皮肉気に一撃をやり返す。
「ん」
「……?」
 そんなやり取りに頷いたレオンの調子を見てドラマは怪訝な顔をした。
「おいで」
 漸く顔を上げたレオンは気付けば大きなタオルを持っていた。
「……分かっていたような顔をして!」
「降り出したから用意して貰っといたんだよ」
 立ち上がったレオンがソファに座らされたドラマの後ろに立つ。
 ふわふわのタオルが濡れた髪をわしわしと拭く。
 やり方は実に男らしく雑で、同時に可能な限りその不器用を隠そうとする優しさを帯びていた。
「……」
「……………」
「……元はと言えばレオン君のお使いですからね?」
「そうだよ」
「だから、甘やかして貰うのは……当然の権利なのです」
「そうだな」
 頬を赤くしたドラマの耳はぴくぴく動く。
 禍福は糾える縄の如し――こんな一幕は、何も特別ではないのだけれども。
執筆:YAMIDEITEI

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