PandoraPartyProject

幕間

探偵と騎士と傭兵

関連キャラクター:國定 天川

赤暖簾の夜は更けて
 再現性東京202X――希望ヶ浜の繁華街は眠らない。ネオンと喧騒に包まれた街は、夜妖などまるで意識の外。手元の時計のデジタル表示は、夕食というには些か遅い22時を告げる。
「おい、流石に腹減った。なんか食って帰ろうぜ」
「そうだな、このまま帰るのは骨が折れる……どうだ、あそこで」
「賛成」
 オーバーサイズのTシャツにデニムのルカが誘えば、シャツにスラックスのベネディクトが指すのは赤い暖簾。らぁめん、と書かれたその暖簾をくぐりながら引き戸を開けば――
「おお、奇遇だな」
 壁にかけられたTVに流行の芸人が騒がしく喋る店内のカウンターで一人瓶ビールを傾ける天川と出くわす。
 後ろの壁にはコートがかけられており、シャツを捲ってネクタイを胸ポケットに入れた若干ラフな様相の天川は「よう」と片手をあげる。
「珍しいな、お前達がこっちに居るなんて。まぁ座れ、おやっさん同じのもう一本とグラス二つ」
「いいのか?」
「いいっつってんだからいいだろ。邪魔するぜ」
 一人の時間ではないのか――そんなベネディクトの思案をよそに、ルカは天川の隣へと腰を下ろす。全くこの相棒といえば遠慮なく人の懐に飛び込むのだから――ベネディクトもそれに倣って隣へと座り、天川の差し出した瓶ビールにグラスを傾け、小さく三人でグラスを打ち鳴らす。
「國定は此方で仕事か?」
「まぁな。燈堂の方は一旦片付いたとはいえ色々あるのは変わらねぇよ。で、気が向くと此処で飲んで帰る」
 ――程よく客がいなくて落ち着く、と冗談交じりに天川が言い店主が軽口を返す姿は、成程行きつけのよう。
「あー、お前ら二人はこっちのデカい仕事あったんだっけ。あ、オヤジ餃子二人前と醤油ラーメン大盛、煮卵追加で」
「ルカ、お前なぁ」
「あ? メシ食いに来たんだよメシ。そっちは? なんか頼まねえの?」
 ほら、と卓上に立てられたメニュー表をルカがベネディクトに寄せる。ベネディクトがそれを摘まめば、どこか油ぎったそのべたつきに一瞬眉根を寄せて――一瞬悩むその横顔に、天川の「味噌が旨いぞ」の言葉。
「成程、では味噌ラーメンを普通盛で」
「おいそれ早く言えって、俺の味噌に変えられるか?」
「はは、俺も味噌にするかな。麺半分の野菜増しで……ああ、折角だし今日は奢ってやるよ」
「マジ!? じゃあビールもう一本!」
「……お前、本当になぁ……」
 呆れるベネディクトに、天川は豪快に笑ってビールを煽る。
「おやっさん、二本で頼む。こいつらすげえ食うし飲むから、ビール冷やしといてくれよな」
 男三人、小汚いラーメン屋のカウンターに並んで。
 希望ヶ浜の夜は今日も、賑やかに過ぎていく――
闇ファイトクラブ。或いは、誰にも言ってはならない仕事…。
●闇試合
 夜も遅い時間のことだ。
 とある路地奥、男たちが集まっていた。
 円を描くように何かを囲んで、唾を飛ばして、怒声を上げる。
 男たちの作った円の真ん中では、巌のような巨漢2人が血塗れで殴り合っていた。
「裏社会のファイトクラブってところだな。元締めは、先月潰れたマフィアの幹部だ」
 荒くれ者の群れを見下ろし國定 天川が手元の紙をぺらりと捲る。
 天川の左右から、手元の紙面を見下ろしているのは金の髪の偉丈夫と、褐色肌の青年であった。前者の名はベネディクト=レベンディス=マナガルム、後者の名はルカ・ガンビーノという、天川の同僚たちである。
「マフィアの幹部とやらは、下にいないな? それとも俺が見逃しているだけか?」
 殴り合いをする男2人に目を向けて、ルカはそう呟いた。
「いいや。そいつは普段、現場に顔を出すことはねぇ。飛び入り参加の命知らずが使えそうだと思った時だけ、取り巻きを連れて現れるって話だぜ」
 咥えた煙草に火を着けて、天川は答える。
「つまり幹部に逢いたければ実力を示せということか。何人か強そうな奴がいるな……なかなか楽じゃ無さそうだが」
 誰が行く?
 ベネディクトはそう問うた。
 捕縛対象を誘き出すため、誰かが試合に参加しようというわけだ。
 一瞬、3人は顔を見合わせ、拳を掲げる。
 じゃんけんである。
執筆:病み月

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