PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

蠱惑的な、一瞬

関連キャラクター:アレン・ローゼンバーグ

とある夢
 彼女の男運は最悪であった。
 今日もバーの端に腰掛けて、現実を忘れようと酒を臓腑に流し込む。
「やあ。隣、いいかな?」
 ――だから、見目麗しい青年が声を掛けてきた時は、夢を見ているのかと思った。
 彼と何を話したか、後から思い出すことはできなかった。当たり障りのない話題から、ついつい愚痴を溢してしまった気がする。「元気を出して」と、そう宥めながら彼は自らの掌に口づけを落とす。はらりと薔薇が現れる。その一輪を渡されたワンシーンだけは絵画のように鮮やかに、頭の中に焼きついた。
「……という人を知ってるかな?」
 突如として出された名前に、どきりと胸が鳴る。彼女が以前交際していた男の名前だった。
 酔った勢いに任せて、彼に誘導されるがまま、男の個人情報を吐露していく。
「でも、あんな奴に近づかない方がいいですよ」
「うん。ありがとう、心配してくれて」
 曖昧な微笑。話が一区切りし、女は化粧直しに席を立つ。戻った時には青年は忽然と姿を消していた。

 女は悟った。自分は何らかの理由で情報を得る為に利用されたのだ、と。
 あるいは、惨めな自身が見せた幻に過ぎなかったのだろうか? 大事に受け取った筈のあの薔薇も、夢の如く消え去ってしまったのだから。
 でも、仮に彼が妄想の産物なのだとしたら――もっと自分に都合よくあってほしかったのに!
執筆:

PAGETOPPAGEBOTTOM