PandoraPartyProject

幕間

蠱惑的な、一瞬

関連キャラクター:アレン・ローゼンバーグ

君に捧ぐ
「ただいま姉さん」
 軽やかな足取りで家に帰りつくと、アレンは真っ先に彼女のいる場所へ足を向けた。
 いつも家にいる姉の為に何か面白い話はないかと、アレンは外へ向かうのだ。
「今日は植物園へ行ってきたんだ」
 初夏に咲く花がテーマの展示会が開催されており、一番の目玉として様々な品種の薔薇が各地より集められ咲き乱れていたのだ。
「ああ……とても綺麗だった。姉さんにも見せたかったよ」
 微笑む姉にアレンは心の底から悲しく思う。
 周囲の人々はいつだって彼女に対して冷たい――だから彼女にはいつもこの家で留守番をしてもらうしかないのだ。
 赤や白、黄色にピンク……色とりどりの花に囲まれる彼女の姿はきっと誰よりも美しいはずだ。
 脳裏に思い描く姉の姿。美しい銀髪に薔薇を飾ればきっと映えるだろう。
「そうだ、姉さんごめんね。手を借りるよ」
 ふと思いつきアレンはそっと硝子越しに彼女の手を取り、その甲に唇を落とした。
 途端、そこから美しい青と赤の薔薇の花が咲く。
 其れこそが世界からアレンに与えられた祝福だ。
「とても綺麗だよ」
 双子である彼らの瞳そっくりの色を見てアレンは微笑む。
 僅かばかりの時間ではあるけれど、せめてこの薔薇でリリアの心が癒やされ慰めになることを願いながら。
執筆:いつき
恋に一輪
 折角の初デートだっていうのに、まさか薔薇園が突発的に休園日だなんて。
「残念だけど、仕方ないね」
 落ち込む青年を励ますように、恋人未満の娘は気にしないでと微笑む。なおさら情けなくて、彼は自分の不運を呪っていた。
 色とりどりの薔薇の花咲く庭園で、柄にもなく彼女をエスコートしようと気合を入れていただけに。
 そんなカップルの様子を、何気なく見つめていた者がひとり。やぁ、とふたりに声をかけ、ちらと休園の看板へ視線を向ける。
「おや、今日は休みなんだね」
「ええ、そうなんです。私達びっくりしちゃって」
 残念そうに笑った娘と、明確にショックを受けている様子の青年――それならば、と。
「これを貸してもらえるかな?」
 アレンは青年の持つパンフレットをするりと手にして、そっとくちづけを落とす。その美しい所作にふたり揃って見惚れて、すぐのこと。
 ぱ、と咲いた青と赤の薔薇は、まるで花束のよう。驚いて目を丸くするふたりに、さぁどうぞ、と薔薇を手渡す。
「この花のいのちはとても儚いけれど、君達の未来が長く共に続きますように」
 わぁ、と目をきらきらさせる娘に聞こえぬように、アレンは青年へと耳打ちする。
「デートの予定が狂うことはままあることさ。いいかい、彼女は君と居られることがうれしいんだ」
 そうして、恋する彼に勇気を一輪。
執筆:遅咲
とある夢
 彼女の男運は最悪であった。
 今日もバーの端に腰掛けて、現実を忘れようと酒を臓腑に流し込む。
「やあ。隣、いいかな?」
 ――だから、見目麗しい青年が声を掛けてきた時は、夢を見ているのかと思った。
 彼と何を話したか、後から思い出すことはできなかった。当たり障りのない話題から、ついつい愚痴を溢してしまった気がする。「元気を出して」と、そう宥めながら彼は自らの掌に口づけを落とす。はらりと薔薇が現れる。その一輪を渡されたワンシーンだけは絵画のように鮮やかに、頭の中に焼きついた。
「……という人を知ってるかな?」
 突如として出された名前に、どきりと胸が鳴る。彼女が以前交際していた男の名前だった。
 酔った勢いに任せて、彼に誘導されるがまま、男の個人情報を吐露していく。
「でも、あんな奴に近づかない方がいいですよ」
「うん。ありがとう、心配してくれて」
 曖昧な微笑。話が一区切りし、女は化粧直しに席を立つ。戻った時には青年は忽然と姿を消していた。

 女は悟った。自分は何らかの理由で情報を得る為に利用されたのだ、と。
 あるいは、惨めな自身が見せた幻に過ぎなかったのだろうか? 大事に受け取った筈のあの薔薇も、夢の如く消え去ってしまったのだから。
 でも、仮に彼が妄想の産物なのだとしたら――もっと自分に都合よくあってほしかったのに!
執筆:

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