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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

深緑の1日

関連キャラクター:グリーフ・ロス

真白の墓石
 森林迷宮の一角。
 新緑の地の片隅に、一年を通して青と赤のアネモネが咲き誇る不思議な場所がある。
 唯、静かで幻想的なその花畑の所々には小さな墓標が作られ、花が添えられている。
 墓石に名前は刻まれていない。
 それは妖精郷で望まぬ生を受けた者達の墓。
 ある者は何物にもなれず。
 ある者は自己を見出したが、灰となって風に吹かれて消えていった者達の眠る場所。
 
 いろんな色に染まることが出来たのに、歪で何色にも染まれなかった。
 そんな彼らを忘れぬ様にと、この場所は作られた。
 
 さくさくと土を踏む音が聞こえる。草花を踏まぬ様に静かに歩くその人はこの領地を治める領主。
 名をグリーフ・ロスという。
 色とりどりの花束を抱え、そっと墓石の前に降ろしたグリーフはそのまま手を合わせ瞳を閉じる。
 此処に来る度にアルバムを捲る様にいろんな事を思い出す。

 グリーフ自身、最初はニーヴィアと呼ばれた女性の模造品でしかなかった。
 献身的だった彼女の職業からか『他者を看ること』と。
 二度と愛する者に残される苦しみを味わいたくないという製作者の想いからか『死なないこと』がグリーフの行動原理だった。
 ただ『そうプログラミングされたから、そう生きてきた』
 且つてのグリーフはそれを疑問に思うことも無かった。
 彼女の心(コア)の色が変わり始めたのは、数年前の夏の終わりの頃だった。
『彼ら』と出会ったのだ。

 真っ白な彼らは模造品だった。既にある生命を元に創り出されたホムンクルス、それが彼らだった。
 名前も与えてもらえず、白い泥の中でもがき続けていた。
 オリジナルの名前を不器用に名乗っていた。
 名乗っても本物になんてなれやしないと、屹度彼らが、彼女らが一番分かっていた筈なのに。
 名乗るのを、止められなかった。

「……また、夏が来ようとしています。木々が青々としてとても美しいです」
 グリーフは閉じていた目を開けた。相変わらず目の前の墓石に名前は刻まれていない。
 その表面を愛おしそうにグリーフは撫でる。
「そちらはどうですか? 色付いていますか、風は吹いていますか」
 親しい友人にする様にグリーフは語りかけ続ける。
 忘れないように、何度も、何度も語り掛けそこに眠る彼らに微笑み続ける。
 
 遠くから自身を呼ぶ声が聞こえてグリーフは立ち上がった。領民が心配して探しに来るくらいには時間が経っていたらしい。
「また来ますね」
『グリーフ様』と呼ばれた方に、グリーフはしっかりとした足取りで歩く。
 今の彼女は『ニーヴィア』の模造品ではない。
 唯一人の『グリーフ・ロス』なのだ。

 墓石の前に添えられた花束は、差し込んだ陽光に暖かく包まれていた。
 
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