PandoraPartyProject

幕間

おまかせ!

関連キャラクター:シキ・ナイトアッシュ

遥かな風に乗せて

 穏やかな夏風。青々と茂る木の葉は空の青を一層濃く見せる。
 そよ風に目を細めれば、親友たる二人の面影を思い出してふと笑みが零れる。
 穏やかな日々がそう長く続くものではないことを、シキは知っている。
 今となっては最早相棒のように使うことのできる瑞刀を、宿泊している宿の縁側にて手入れする。
 古い油をふき取って、ぽんぽんと打ち粉をつける。最初こそなれなかったけれど、今となっては目を閉じていても出来る気がする。勿論、大切なものだからそんなことはしないのだけれど。
「……ん、よし。綺麗になった」
 銀光讃え、その刀はシキの手元で輝いた。
 刀を袋に仕舞いぎゅうと抱きしめる。ぼんやりと眺めた蒼穹。嗚呼――愛おしい。
執筆:
雨宿り
 ぴちゃんと頬に当たる冷たい感触にシキは目を瞑った。空を見上げればいつの間にか曇っていた様で雨の雫が一つ、二つと落ちてきてやがて勢いを増す。
「わっ、振ってきちゃった」
 近くの木陰に雨宿りして様子を見る。生憎と今日は傘を持ってきていない。
 ふとセピア色の光景が蘇る。忘れる筈もない光景。

 あの日も雨が降っていた。振り下ろした刃はびっくりするくらい冷たくて、なのに迷いは無くて。
 夕陽みたいに綺麗だった柘榴石は粉々に砕け散った。
「……寒いな」
 ぎゅうと上着を手繰り寄せる。肌寒いのは屹度雨の所為だけではないだろう。
「……?」
 すり、と足元にすり寄る感触がしてみてみると栗鼠がじいっと此方をつぶらな瞳で見つめていた。
「君も雨宿りかい? 私もだよ」
 ふっと微笑んで手を伸ばすと小さく鳴いて、腕を伝って登ってきた。
 ふわふわの毛並みと温かさがひどく心地よかった。
 マフラーに潜り込んできた栗鼠に「くすぐったいよ」と笑いつつ追い出すことはしなかった。

 やがて振り続けていた雨は止み、雲の切れ間から光が差した。
 ぽたぽたと葉から伝い落ちた雫は何処までも透き通っている。
「上がったようだね」
 栗鼠の頭を一撫でして、シキは立ち上がった。
 腕を枝に伸ばしてやり、栗鼠を家へと帰らせてやる。
「じゃあ、私は行くね。また会おう」
 笑った藍柱石は青空みたいに綺麗だった。
執筆:
降りしきる心
 いつの日かの夢を見る。
 刃に滴る紅く錆びついた液体。私の未来はもう手放されたのだろうという諦念。
 私は処刑人として、もう何人の命を奪っただろう。
 許されることではない事はとうにわかっていた。『あの日』痛いほどに降りしきる雨を見上げてからは。

「はっ!!」
 シキは飛び起きる。早い呼吸に滴る冷や汗。彼女は夢を見ていた。
 時折心に降る雨に彼女は魘されているようだった。
 まるで『あの日』が彼女にまとわりついているのではないかと錯覚を起こす程。
「あ」
 それでも自分を保つことが出来るようになったのは大切な大切な『蒼穹』を見つけたからだろう。
「嵐、どこかに行ったんだね」
 安心したように微笑む彼女の嵐の後には、晴れやかな穹が窓越しに待っていた。
執筆:月熾
女子会の日
「はわ……!」
「ま、まあ……!」
「これは……すごいわね……!」
 エルス、リア、シキの三人はカフェの机を囲んで見た物には言葉を失った。
 出された大皿には木目調が美しい円形のスポンジケーキ。
 そのスポンジを抹茶ミルクのクリームとホイップクリームが彩る。
 その上にチョコレート片が舞い踊る。
 そのケーキの裏、クレープで作られた花束が鮮やかに咲く。
 そしてだめ押し、皿の縁ギリギリまでフルーツが盛られてキラキラと輝いていた。
 また別の深皿に入れられた味変を楽しめるクリームやナッツ達もワクワクさせる可愛さ。
 知らず知らず空いた口が塞がらない。
 綺麗で美味しそうな、本日のご褒美だった。
 ここは練達、希望ヶ浜。そこで有名なオシャレカフェ。
 前々か行ってみたかったカフェの予約が、今日やっと取れたのだった。
「これ本当に三人で食べて良いのか?! 凄いよ?!」
「せっかく予約したのですもの! むしろ食べなきゃ勿体ないわ!!」
「ああ、でも写真。写真にも残したい……!!」
 そうだ、とシキとリアが揃って反応して様々な角度からカメラを向ける。
 一通り写真に収めて三人は改めて顔を見合わせる。そして。

 ──声を揃えていただきます。
 心がほどけるほどの、甘い甘い誘惑に三人は手を伸ばした。
執筆:桜蝶 京嵐
かがみうつし
 そっと、鏡に触れる。
 薄暗い室内でも僅かな光を集めるかのようにあわく輝くのは、澄んだ水宝玉の瞳。胸の内の曇りを現すこともなく、その価値を輝きに乗せてくる。
 昔は瞳だけだったそれは、シキという存在を覆うように侵食していく。シキだった者から、宝石という物に。
 鏡に額を寄せ、静かに目を閉じる。手を握り込んで空気を吐き出すが、それはどこか震えていた。けれど、吐き出した空気はあたたかい。まだ、あたたかいんだ。

 一人きりの部屋の中。遠くから、しとしとと雨の音だけが響いていた。
執筆:倉葉

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