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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

とある絵描きの記憶

関連キャラクター:ベルナルド=ヴァレンティーノ

親子の肖像
 が、がりがりがりがり。
 一回だけ無意識に止めていた呼気を吐いて吸う。
 それからモデルに向き合って筆を走らせる。
 ──依頼された絵のモデルは、震えるほど美しい人形と作者の老人だった。
 思わず依頼人に「生人形か?」と言ってしまったほどだ。
 依頼人でありモデルの1人は違う、とハッキリ言った後に「そうであれば良かったがな」とも言った。
 全身に白粉を塗ったかのような肌。
 特徴的な化粧はしかし、触れ会う事を誘う色気。
 その癖、蒼い瞳は遠くを見つめて全くつれそうにない。
 長く艶々とした黒い髪から香料の香りを思わす。
 デコルテのみを露出させ、それ以外を重い布に封じた服の清らかさ。
 均等に揃えられた爪に宿る繊細さ。
「この人形は本当に凄いな。一体どうしたんだ?」
 一息ついてくれ、と彼が昼食を持ってきたので聞いてみた。
「あれは娘なんだ。現実の、じゃない。俺の手から生まれたもんだ」
 彼は人形作家だった。
 けれど少し前に天義の新たな神託を巡る戦いの時に棲む家を追われた。
 モデルの人形は美術館に貸し出していて無事だったが、彼自身は怪我をした。
 逃げる時に転げ、手首を折ってしまった。
 もう歳で治るのが遅い。これ以上の人形は作れそうにない。
「だから絵画、写真、文章……。遺せる全てに俺が父親で作者だと遺すんだ」
 俺という1人の人形作家、その姿を。

 絵画が完成して、俺は果たして自分の姿を作品として遺したくなるかどうかを考えていた。
執筆:桜蝶 京嵐

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