PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

潮騒商館

関連キャラクター:ラダ・ジグリ

酷い朝。或いは、抗い難い誘惑の夜…。
●ある寒くて酷い朝
 朝日が昇る頃、窓から差し込む日差しを浴びてラダ・ジグリは目を覚ます。
 昨夜は長い旅を終え、早々に床についたのだ。久しぶりに柔らかくて暖かい布団で眠ったおかげもあって、寝覚めは存外すっきりしていた。
 寝ぐせの付いた髪もそのままに、「ばにく」と書かれたTシャツからいつもの服に着替えることさえも後回しにして、ラダは寝室から食堂へと移動する。
 どうせ今日の午前中、商館にはラダしかいないのだ。商会の長として、身なりにも相応に気を使う必要はあるものの、それを見る者が不在ならば気を抜くこともあるだろう。
 けれど、しかし……。
「っ……酒臭い」
 食堂に1歩、脚を踏み入れたラダは思わず口元を手で覆う。
 食堂に漂う甘い酒精は、仕入れていた果実酒のものだろう。日頃は商会員たち……主に元・盗賊の姉妹が飲んでいるものだが、彼女たちはつい一昨日から遠くの街に仕入れに出ている。
 そもそも、昨日はラダ以外の誰も商館にいなかったのだ。
 なのに、酒の臭いがするのはおかしい。それも、樽を開けたかのような濃い酒精となればなおのこと。
 と、そこでラダは“ある可能性”に思い至った。
 すなわち、何者か盗人が押し入った可能性である。生憎とライフルは部屋に置きっぱなしだ。近くにあった箒を手に取り食堂の奥へ……貯蔵庫へと近づいていく。
 果たして、そこには……。
「なぜ、ここにいる?」
 床に転がる人影が2つ。
 紅く燃える髪と、オレンジ色に染まった髪の2人の寝顔には見覚えがあった。ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ、およびアーリア・スピリッツである。
「んぁ~、ちょっと~……ラダちゃん起きて来たわよぉ?」
「ラダ~、いいところに来ましたわね~。溜まっていたツケを払いに来ましたわ~」
 見ればヴァレーリヤの手には硬貨の詰まった袋が握られている。それから、空になった酒の瓶も。
「いや、待て……新しいツケが増えているだろうが」
 その手から財布と酒瓶をもぎ取ると、2人まとめて箒で外に掃き出した。
執筆:病み月

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