PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

きょうの( ‘ᾥ’ )

関連キャラクター:リコリス・ウォルハント・ローア

狼狐と味噌汁と
 任務明け、朝日が顔を出した頃リコリスは腹を摩っていた。きゅうと鳴った腹の音は今ので何回目だっただろうか。
「お腹すいたよぉ……お師匠、ご飯……今いないんだった……」
 しょぼんり耳と大きな尻尾をリコリスは下げる。大好きな師匠は今単独任務の真っ最中で傍に居ない。とぼとぼリコリスは歩く。
 すん……とよく効く鼻に届いたのは優しくていい匂い。ばっと顔を上げ「食べ物の匂い!」と駆け出して、匂いの元を辿って猛ダッシュ。
「ご飯!!!」
「うぉぁ!?」
 ばばーんと引き戸を勢い良く開ければ、ビクッと跳ねた尻尾と見知った顔がいた。
「あれ、嘉六おにーさん!」
「あ? なんだ、お嬢ちゃんか。なんか用か?」
「いい匂い! 何作ってるの?」
「えっ、無視……?」
 するりと脇を通り抜けたリコリスが覗き込んだのは鍋だった。すんすんと匂いを嗅いで目が爛々と輝いている。
「ん? お嬢ちゃん味噌汁知らねぇのか? ああ、いや無理もないか」
「ミソシル?」
「発音が若干違うがまあいいか。味噌って調味料で味をつけた飲む料理だ」
「スープのこと?」
「そうそう。こいつが美味いんだ、良かったら一杯飲んでくか?」
「いいの!?」
 ぶおんぶおんとはちきれんばかりに揺れる尻尾とじょぱぁと涎が滲む口元に嘉六は喉の奥で笑う。
 赤いお椀を戸棚から取り出し、お玉で味噌汁を注いでやる。今日は豆腐とわかめの王道の組み合わせだった。
「そら、熱いから気ぃつけな」
「わぁ……! あったかい! いただきます!」
 ふわぁっと味噌と出汁のいい香りが口の中に広がり、冷えた体を温める。豆腐は程よい硬さで、わかめの歯応えが楽しい。
 こくんこくんと、飲んでリコリスはほっと一息ついた。
「美味しい! 嘉六さんってお料理上手なんだねぇ」
「朝は必ず味噌汁飲んでるからな、慣れたもんよ」
 美味しい美味しいと満面の笑みで嘉六の味噌汁を堪能していたリコリスだが、ふと気づいた。
 ここ、誰の家だろう?
 部屋の奥を覗くと布団が動いて、綺麗な黒髪がさらり。尊敬の眼差しから一転、呆れた眼差しで嘉六を見上げた。
「なんだ、今気づいたのか? 安心しろよお嬢ちゃんは取って食いやしないから」
「( ‘ᾥ’ )」
「えっ、何その顔……? でも、まぁ」
 つい、と嘉六の節くれだった指先がリコリスの顎を掬う。
「お嬢ちゃんがあと三年程たったら、わからねぇがな」
 揶揄う声は愉しそうで、細められた柘榴の双眸と低い声は甘やかだ。
 
 お師匠が言ってた。
 こう言う時はそう、魔法の言葉を言うんだよって。
「おまわりさん!!こっちです!!!!」
「やめろやめろやめろ!!!!」
執筆:

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