PandoraPartyProject

幕間

ゴリョウ亭の今日のごはん

関連キャラクター:ゴリョウ・クートン

フラーゴラとオムライス
 フラーゴラはゴリョウ亭を訪れていた。自身のほかにも何人か客がいるようで、楽しそうな声が響いている。
 机を拭いていたゴリョウが、フラーゴラに気が付いた。
「おう、いらっしゃい! よく来たな。好きな所座ってくれ」
 周囲を見渡した後、フラーゴラは席に着いた。メニューを手に取り品物を確認する。
 文字だけでどれも美味しそうで、うっかりすると涎が垂れそうになりそうだった。
 水を持ってきたゴリョウが序に注文を取る。
「決まったかい?」
「んー……じゃあ……オムライスがいいな」
「あいよ!」

 トントンと具材を刻む音、かちゃり卵を割る音。
 じゅわぁっと流された卵液が焼ける音。
 フラーゴラ自身料理を嗜んでいるので、それらの音は馴染が在り心地がよかった。
 ちょっとした演奏の様だと思いつつ耳を傾けていると、すんといい匂いが漂ってきた。
「待たせたな、ご注文のオムライスだ」
「美味しそう……!」
「ぶははっ、ゆっくり食べてくれよな」
 
 ほかほかの湯気に包まれたオムライス。
 スプーンをそっと卵に入れるとふわふわとろとろに仕上げられた黄色の蕾が花開く。
 卵の奥にはチキンライスがみっちり詰め込まれていて仄かに香るケチャップの香りが食欲をそそる。
 きゅうと切なげに腹が「早く早く」と急かすので、ぱくりと一口。
「~~~っ!!」
 口の中で卵とチキンライスが絡み合っている。
 食べやすい大きさにカットされた鶏肉は噛めば噛むほど旨味が溢れ出てきて、ケチャップの甘酸っぱさが派手過ぎず素材の良さをこれでもかと引き立てている。
 米粒も一つ一つの形が分かるほどふっくらとしていて、仄かに甘みがありとても美味しい。
 厚めに焼かれた卵焼きは、ふるふるとふるえて、口の中で解けていく。
 一口、二口とスプーンを運ぶ手は止まらない。
 早く次のを頂戴と可愛らしく舌が強請るのだ。気が付けば白い皿に盛られたオムライスは無くなっていて、ふぅとフラーゴラは一息ついた。

「美味しい……このオムライス本当に美味しいね……」
「ぶはははっ! 気に入ってもらえたようで何よりだねぇ!」
 
執筆:
アーリアと卵粥
「うう……」
「おう、いらっしゃ……おい、大丈夫かい?」
「大丈夫よぉ、でもちょっと昨日飲み過ぎちゃって……」
 時刻は朝方、厨房で野菜の下ごしらえをしていたゴリョウは顔色が良くないアーリアを出迎えた。
 アーリアの酒好きはローレットでも有名だが、いかんせん好きすぎて翌日には二日酔いになっていることも少なくない。
 月の魔女と称される美貌も、今に於いては青白く目の下に若干隈が出来てしまっている。
「という訳で、私、お腹に優しい物が食べたいわぁ」
「ぶははははっ! 任せてくんな!」
 
 かちゃんと卵をボウルに叩き割り、箸で空気を混ぜながら解きほぐす。
 鍋に水を入れて、白だし、醤油、みりんをしっかりと分量を量って入れる。
 鍋を火にかけ、艶やかな白米を投入し沸騰してきたところで火を一旦弱める。焦ってはいけない。
 米が柔らかくなってきたところで、中火に戻して卵を手早く回し掛ける。
 卵を全体に絡ませるように切るように混ぜ、固まったところで火を止め小さな土鍋に盛り付け、最後に小口切りにした葱を散らせば――。

「注文の卵粥だぜ! 熱いから気をつけな」
「ありがとう、とっても美味しそうねぇ」
 手を合わせ、小さく頂きますと呟いてアーリアは匙で卵粥を掬う。
 湯気がほかほかと立ち、ふぅふぅと冷ましてからそうっと口へ運んだ。
 出汁の上品な香りがまず広がって、旨味をたっぷり吸った米と卵が口の中で解けてふわふわ踊る。
 卵は固すぎず、それでいて柔らかすぎず、絶妙な硬さでトロトロになった米と絡んでいた。
 飲み過ぎで疲れた身体を労る様に、隅々までぽかぽかと温まっていく。
 優しい味と温かさに身体だけでなく、心まで温まる様だった。

「本当に美味しいわぁ。身体に優しいってこういうことを言うのねぇ」
 ぐぅっと身体を伸ばして、また一口、二口と卵粥をゆっくりと食べる。その度に自然と笑みが零れた。
 やがて、土鍋の底が見え卵粥を完食したアーリアは備え付けの紙ナプキンで口元拭い、再度手を合わせた。

「ごちそうさまでした。ここの卵粥、とっても気に入っちゃった! また食べに来るわね」
「おう、そりゃなによりだ! しかし、飲み過ぎもほどほどにな?」
「はぁい」
 舌を出し、肩を竦めるアーリアがまた二日酔いでゴリョウ亭を訪れるのはまた別の噺――。
執筆:
マリ屋vsゴリョウ亭?
 カツ丼を頼もうか!そう挑戦的に言い放ち、ゴリョウ亭を訪れたのはマリア・レイシスだった。
「ほう?」
 店主、ゴリョウ・トークンの目に好戦的な光が宿る。マリアもまた飲食店、串カツマリ屋のオーナーである。その彼女がカツを頼む……これは真剣勝負に他ならない!
「ぶはははっ、承ったぜい!期待してくんな!」
 料理人たるもの、客を選んでで品質を変えるなどということはしない。だが、腕を振るうその指先に、眼光に、温厚なゴリョウをしてなお滾る戦意が滲み出るのは致し方ないことだった。
「な、なんだか今日のゴリョウ君は迫力が違わないかい?私何かした?」
 一方のマリアはただただ困惑していた。

 厚い肉の筋を断ち、胡椒を振りかけるまでの仕込みが施された肉を取り出し、塩を振る。
 肉汁を逃がさぬ気遣いのひと手間ののち、小麦粉で化粧をし卵と絡める。優しく生パン粉の上に寝かせて布団を書けるようにまぶせば、あとは揚げるのみ。
 シャアア。落とした生地で油の適温を確認したら、生トンカツを油に沈める。油跳ねなどものともせず、極力静かに。
 そうしてきつね色になるまで裏表を返しつつ揚げている間に、別鍋に玉ねぎを炒め、出汁を加えて沸騰させる。
 トンカツが出来て油を切る数十秒の間に丼に白米をよそい置き、余分な油を落としたカツをザクザクと切り分ける。よく研いである包丁は衣を崩すこともない。
 切り分けたカツと溶き卵を出汁の鍋に加えてひと煮立ち。出汁を吸った卵がふわふわとカツを包み込み、しっとりとした食感を生みだすのだ。
 これを汁ごと白米の上に。彩りに三つ葉を散らして完成だ。

「あいよおまちどう!」
「ああ、お出汁のいい香りが食欲をそそるね!いただくよ!」
 カシュッ……ほんのり揚げたての食感が残りつつ、出汁の効いた一口目は至福の極みといっていい。
 本能に訴える美味、それを味わうマリアは屈託のない笑みで箸を進め、それを見守るゴリョウは確かな手応えを感じていた。

「ああ、満足だよ。ご馳走様、ゴリョウ君!」
「どういたしまして、だな。うちのカツはマリ屋のオーナー様のお気に召したかい?」
「うぇっ!? う、うん美味しかったよ?」
「ぶははははっ、わりぃわりぃ。ちょいとこっちが熱くなっちまってたか。何でもねぇ、また来てくれよな!」

 美味しいものを食べ、作る。そこに勝敗などなく、WIN-WINの関係だけがあるのだった。
執筆:鴛乃
アブラボウズとゴリョウの教え子
「ゴリョウ殿。少々知恵を拝借したいのですが、良いでしょうか?」
 そろそろ夜の仕込みを始めようかという時間、顔を覗かせたのは彼者誰だった。
 今日は朝から依頼で店には寄れない筈だった彼がハッキリと困った顔をしてゴリョウを頼るのは珍しい。
「おう、どうした? なんぞ不埒な輩でも押し掛けてきたか?」
「いえ、依頼で現地の方からお礼の品を頂いたのですが……」
 調理法が分からないんです、と彼者誰が見せたのは深海魚のアブラボウズだった。
 血抜きされたそれはかなり高級品だが、大きさ故に捌き方の検討がつかなかったのだろう。
「こいつは上等だなあ。よし、良いぜ! とびきりのもんを作ってやる!!」
 ゴリョウはまず、慎重な手つきで二枚におろしていく。
 アブラボウズは見た目のゴツさと大きさに反対に骨は脆く、身は柔らかい。
 半身をさらに食べやすいブロックに分ける
「開いてビックリですね、こんなに身が詰まっているとは。ゴリョウ殿、半分貰ってくれませんか?」
「良いのか? 彼者誰が貰ったものだろ?」
「いくら俺が大食漢でも妹と二人では食べきれませんから」
 それを聞いたゴリョウは身を平造りに。鍋に醤油、料理酒、みりんをそれぞれ入れて火にかける。
「彼者誰、アルコールが飛んだらもう降ろして粗熱を取ってくれ」
「承知しました」
 火の番を彼者誰に任せ、次は味噌漬けに取り掛かる。
 自家製味噌にみりん、料理酒を混ぜ合わせてまんべんなく塗り込む。それを冷蔵庫へ入れ、彼者誰を振り返る。
「味噌漬けの方は明日が食べ時だからな、後で漬けと一緒に持って行って明日の飯にすると良いぜ!」
「お気遣いありがとうございます。折角なので、俺はこのまま夜の仕込みを手伝ってから帰りますね」
 ゴリョウは彼者誰の申し出を有り難く受けると、店の黒板に『数量限定 アブラボウズ入荷』と書きに行くのだった。
執筆:桜蝶 京嵐

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