幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
アンデッド・リデンプション
アンデッド・リデンプション
redemption
〔抵当に入れた財産の〕取り戻し、受け戻し、買い戻し、回収
〔義務・約束の〕履行
《神学》罪のあがない、贖罪
《金融》償還、兌換
◆あらすじ
失った記憶を取り戻すべく、マリカは近親者の眠る墓を探す旅に出ます。
その道中で人や死者を助けたり、『お友達』を増やしたり、悪霊を鎮めたりもするでしょう。
旅の邪魔をする墓荒らしや墓守をかわいそうな『お友達』に変えてしまうこともあるかもしれません。
しかし一向に探し物は見つかりません。
それもそのはず、彼女は本気で探してなどいないのですから……。
この物語はやがて訪れる贖罪に至るまでの前日譚。
関連キャラクター:マリカ・ハウ
- 400年。或いは、グレイタローンの墓場島…。
- ●グレイタローンの墓地
海洋のとある海域で数千人が命を落とした。
当時、勢力を増していた海賊艦隊と、ある島の船団による大規模な戦い……歴史の本に“グレイタローンの海戦”の名で記されたその出来事は、海賊艦隊の壊滅といった形で幕を閉じた。
それから時は流れて400年。
海戦によって命を落とした者たちの亡骸は、今も船と一緒に海の底にある。
墓場島“グレイタローン”。
海戦のあった海域にある小さな島だ。
命を落とした者たちが安らかな眠りにつけるよう、島を1つ丸ごと彼らの墓地とした。
島の中央には礼拝堂。
それから、島を埋め尽くす数千の墓標。
年に1度、海戦の終結した日には近くの海域に船を寄せ、花束や酒を海へと投げ入れるという催しが、当時から今に至るまで続けられているという。
ある夏の晴れた日。
マリカ・ハウは墓場島を訪れた。
なんとなく、強いて言えば誰かに“呼ばれた”気がしたからだ。
「わぁ! びっくりするほど沢山の“お友達”♪ あなたたちがマリカちゃんをここに呼んだの?」
マリカの目には、数千に及ぶ亡者の姿が見えている。
海賊も、軍人も、生きていたころの恨みや怒りは現世に置いてきたのだろう。肩を組んで、歌を歌って、酒を傾け、煙草を燻らす。
400年の間、きっと彼らはこうして過ごして来たのだろう。
けれど、それももうじき終わる。
一説によれば、霊の寿命は400年ほど。それを過ぎると、次第に元の姿を忘れ、自然と消滅するか、霊ではない別の存在に変質するらしい。
もっとも、ほとんどの霊は400年が経過する前に成仏してしまうそうだが……。
ここに残った数千人も、そう遠くないうちに消えてしまうのだろう。
「うぅん? もう声が聴こえなくなっちゃってるね? マリカちゃんとは“お友達”になれなさそうかな?」
墓石に腰かけ酒瓶に口を付けている海賊の霊へ視線を向けて、マリカはそう呟いた。
海賊は、困ったように肩を竦めて、それからニカッと笑ってみせる。
『お前もどうだ?』
声は聞こえないけれど、海賊はきっとそう言った。
差し出された酒瓶を押し返し、マリカは笑う。
言葉が通じなくても、マリカと死霊は意思の疎通ができている。
ならば、それでいいではないか。
「皆は仲良くパーティーをしていて、マリカちゃんがそこに来て……それってつまりハロウィンだよね☆」
食べて、飲んで、騒いで、歌って。
仲良くなったら「一緒に来ないか」聞いてみるのも悪くない。
海で死んでから400年。
きっとすっかり、島での暮らしに飽きているだろうから。
「最後の航海になるかもしれないけど、絶対に後悔させないんだからっ♪」
なんて、言って。
今日もマリカは死霊と遊ぶ。
- 執筆:病み月