幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
アンデッド・リデンプション
アンデッド・リデンプション
redemption
〔抵当に入れた財産の〕取り戻し、受け戻し、買い戻し、回収
〔義務・約束の〕履行
《神学》罪のあがない、贖罪
《金融》償還、兌換
◆あらすじ
失った記憶を取り戻すべく、マリカは近親者の眠る墓を探す旅に出ます。
その道中で人や死者を助けたり、『お友達』を増やしたり、悪霊を鎮めたりもするでしょう。
旅の邪魔をする墓荒らしや墓守をかわいそうな『お友達』に変えてしまうこともあるかもしれません。
しかし一向に探し物は見つかりません。
それもそのはず、彼女は本気で探してなどいないのですから……。
この物語はやがて訪れる贖罪に至るまでの前日譚。
関連キャラクター:マリカ・ハウ
- たとえ死が分かとうとも
- "誰でもいいから、死霊術師は来てほしい。"
そんな依頼を耳にして、マリカはとある屋敷に訪れた。話によると、依頼人も死霊術師の心得があるらしい。同じ術を扱う者ならば、きっと自分の過去も――とは別に期待していなかったが、同好の士がどんな助けを求めているのか、軽薄な興味が彼女を動かした。
針葉樹が聳える林の奥。世間から隠れるように屋敷は存在していた。トントンと、ハロウィンにお菓子を貰いにきた気軽さで、マリカは扉をノックしてみる。
「あなたが死霊術師ですか!?」
即座に扉は開け放たれた。痩せぎすの女が飛び出し、ぎょろりと血走った眼を向ける。
「ちょっとちょっと。顔近いってばー」
「付いてきてください」
有無を言わせず女はマリカの腕を掴み、引き摺っていく。更年期も大概にしてほしいと、マリカは少しむくれる。
辿り着いたのは重厚な扉の一室だった。暗い部屋に入るや否や、噎せ返る程の腐臭が鼻を突く。蝋燭の灯だけが、床や壁に隙間無く描き込まれた魔法陣を、薄っすらと照らし出していた。
中央には一人の遺体が横たわっている。
――遺体、だろうか? 四肢は無く顔は抉られ、ただの肉塊に等しかった。数多の屍を従えるマリカには、直観的にそれが人間の死体だと感じ取れたが。
「私の、愛する人です。彼が帰ってくる術を、探しています」
「へぇー! 見せてみてよ♪」
若干やる気を失っていたマリカだったが、馴染みの無い死霊術を前に、再び好奇心が蘇った。
肉塊に近づく。一つの弱々しい魂の周りに、複数の魂が混ざり合い、縛り合っている。離れかけの魂を他の魂で抑えてるのだろうか。
「戻ってくるも何も、彼氏クンの魂はここにいるよね? こんなに混じっちゃったら、ふつーに話すのは無理っぽいケド」
瞬間、女の形相が憤怒に燃えた。
「彼が帰ってこないと言いたいのですか!?」
「だからぁ、帰ってくるも何も――」
「あの人が! 帰ってこないと!?」
あ、ダメだこの人。気が触れちゃってる。
血塗れの短剣を突きつけられ、マリカは冷め気味にそう思った。だがそれも束の間、悪戯な笑みを浮かべる。
「結局さ、彼氏クンと一緒にいたいだけだよね♪ 大丈夫、マリカちゃんに任せてよ☆」
唯一つ、愛を取り戻せる方法を思い付いていた。
彼が戻るのを望むよりも、ずっと手っ取り早くて、確実な方法。
マリカは大鎌を振るった。
●
涙を流す男達の魂に、女の霊は延々と愛を囁く。
意思疎通が成り立ってるとは思えないが、まぁいいやとマリカは放り投げる。どうやら女はマリカに感謝してるようだし、一人の魂に沢山纏わりついてたお陰で、『お友達』のコスパも良かった。
「マリカちゃん、またイイコトしちゃったな❤」 - 執筆:梢