PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

アンデッド・リデンプション

redemption
〔抵当に入れた財産の〕取り戻し、受け戻し、買い戻し、回収
〔義務・約束の〕履行
《神学》罪のあがない、贖罪
《金融》償還、兌換

◆あらすじ
失った記憶を取り戻すべく、マリカは近親者の眠る墓を探す旅に出ます。
その道中で人や死者を助けたり、『お友達』を増やしたり、悪霊を鎮めたりもするでしょう。
旅の邪魔をする墓荒らしや墓守をかわいそうな『お友達』に変えてしまうこともあるかもしれません。

しかし一向に探し物は見つかりません。
それもそのはず、彼女は本気で探してなどいないのですから……。

この物語はやがて訪れる贖罪に至るまでの前日譚。


関連キャラクター:マリカ・ハウ

鋼の騎士
「そこな娘、動くな」
 背中の側に殺気を感じる。おそらくは剣を突き付けられているのだろう。
 面倒くさい性質の奴につかまった――。マリカ・ハウは心の中で舌を出しながら足を止める。闇の中を走り続ければ、『それ』から逃げることは出来るだろうが、少々からかってみたいという興味が勝った。
 時は宵闇、空は曇り。天義の国境地帯にあるうち捨てられた墓場では、霊魂が寄る辺なくさまよっている。
 後ろをちらりと見れば、サーコートを羽織った全身甲冑の人影。声は壮年の男のもの。真面目さが鎧を着こんでいるような響きだ。
「えー、職務熱心☆ もう日は沈んだってば♪」
 マリカにはサーコートの紋章に見覚えがあった。鋼で出来た飾り気のない天秤は、世にあるべき生死の巡りが訪れることに命を懸ける『鋼秤修道会』のもの。
 ありていにいえば、死霊と死霊術師の天敵である。
「貴殿が漂わせているのは不正な死の気配。よからぬものに憑かれているか、使役者か。どちらにせよ、生死の法を守るために、生かしてはおけぬ」
 これだからクソマジメは、とマリカは向き直る。
「そんなことをいってもさぁ、おじさん、骨と肉はどこにやっちゃったの?」
 死霊術を操るマリカには、騎士の正体が一目でわかっていた。
 『バー』、即ち霊魂のみが、執念で古びた鎧を動かしているのだと。暗闇でも、音はごまかせない。鎧は長年手入れをされていないのだろう。ぎしぎしといやな錆のこすれる音を立てている。
「どうせ、怖くて本当のこと認められないんだよね♪ 死霊を殺すのがお仕事なのに、死霊になっちゃったんだもの☆」
 騎士は何のことかわからぬ、と言いたげに剣を構え直す。かつては聖別されていたであろうそれは、今や昏い瘴気を纏っていた。
 現状を認める気は、ないらしい。完全に不浄の存在と化したかつての聖なる騎士は、己の誓いに縛られたまま、宿命の手から零れ落ちて地上をさまよっている。
「ほらほらそんなのしまってしまって! 連勤は体に毒だぞ♪」
(クソマジメそうだし、お友達にしたら、からかい甲斐があって面白そうかも?)
 マリカの魔性の右目が輝き、墓場全体がざわめき始める。
 バンシーの悲痛な叫び声が、魔宴の開始を告げた。
執筆:蔭沢 菫

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