幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
幻想種グルメ
幻想種グルメ
関連キャラクター:ドラマ・ゲツク
- ココナッツ・ミルク。或いは、激闘の果てに…。
- ●かつてない強敵
テーブルの上にはココナッツ。
サイズは女性の頭部ほどと、思った以上に大きいものだ。
「……これは、どうすれば」
試しに拳で軽く叩いた。
ゴン、と鈍い音がする。叩いた感覚や、音の具合から、中身がしっかり詰まっていることが分かる。
ココナッツの左右には、ノミに似た器具と、鋭く研がれたナイフ、それから小さなハンマーが1つ。まるで大工仕事でも始められそうな器具がそこに揃っているが、なるほどつまり、これを使ってココナッツを解体しろということだ。
「えぇと、確か外の茶色い部分は繊維質でしたか? 全部、剥いてしまっても良かったはず」
ドラマ・ゲツクはノミを手に取り、繊維質へと突き刺した。手の力でノミの刃を深く差し込むと、柄の部分をハンマーで叩いて繊維質を剥ぎ取った。
思ったよりも硬い。
繊維質の内側には、白い果実が覗いていた。
「……どうしてこんな苦労を」
なんて、今さら文句を言っても遅い。
ココナッツミルクが健康に良いと耳にして、興味本位で1つ取り寄せたのはドラマなのだから。
想像以上に硬度があって、食べにくいことだけが予想外だった。
ノミとナイフを交互に使って、やっとのことで繊維質を取り除く。ツルリとした白い果実がそこにあった。
けれど、まだ硬い。
このままでは食べられない。
「さて、どうしましょうか……果肉をスプーンでいただくか、穴を空けて果汁を飲むか」
作業の手を止め、ドラマは数瞬の間、思案に耽る。
取り寄せたココナッツは1つだけ。
となると、まずは穴を空けてストローで果汁を飲むのが良いのではないか。
そうと決まれば、穴を空ける必要がある。
まずは再びノミを手に取り、ココナッツの上部に軽く突き刺した。それから、近くにあった木材や、先ほど剥がした繊維質を使ってココナッツを固定する。
転がっていかないことを確認し、ノミの柄目掛けてハンマーを落とした。
ガコン、と。
思ったよりも簡単に、ココナッツに穴が開く。
ふわり、とほんのりとした甘みと、どことなく脂っぽい香りが鼻腔を擽る。
なるほど、これがココナッツミルクの香りなのか。
「ふむ……思ったよりもミルクっぽくはありません」
おそるおそる、といった様子でココナッツへとストローを刺した。
ゆっくりと、ココナッツミルクを吸い上げると……口内には、ほんのりとした甘みと、油のような粘っこさが広がる。
「美味しいと言えば美味しいですが……進んで飲みたいかと言われると……うぅん」
思ったよりも美味しくないし、大量に飲むと胃もたれしそうな感覚もある。
しかし、聞けばこのココナッツミルクは健康にいいと言うでは無いか。
「……スポーツ飲料に似ている? ような、気がしないでもないような……そうでもないような?」
どう評価すればいいものか。
脳内で幾つもの言葉が浮かんでは弾け、浮かんでは弾けを繰り返す。
結局、ココナッツミルクを飲み終わるまでの時間をかけて……出た結論は「ココナッツミルクの味でした」というものだった。 - 執筆:病み月