PandoraPartyProject

幕間

ホストクラブ『シャーマナイト』

関連キャラクター:鵜来巣 冥夜

If she is a pest
 〇月△日
 よく自分を指名してくださるXXXさんですが、ここ最近俺に対しての付きまといが多いです。
 あとは、同担の他のお客さんが来ると、そのお客さんへの嫌がらせみたいなこともしています。
 そろそろ出禁を検討したほうがいいかもしれません。

「……お客様は「原則」神様ではありますが、疫病神もいるんですよ」
 開店前の19時30分。
 ウーロン茶を一口啜り、冥夜は従業員の引継ぎノートを斜め読みして苦笑いをこぼす。
 そんな彼の様子を、オランは不思議そうに眺めている。
「俺は別に、そんな疫病神には当たったことはねぇけどな」
「まぁ、客商売である以上、そんな疫病神もいる。そういうものです」
 ノートを閉じ、元の場所にしまう。
 とはいえ、と、冥夜は再びオランの方に振り返る。
「……とはいえ、そんな奴は、『自分だけ』を見てほしい拗らせた面倒くさい神様なのですよ」
 笑ってはいるが、口元だけ。その目は本当に疫病神を忌み嫌っている。

「私は今日、他店のオーナーへ挨拶回り……要は不在です。……オラン、店のこと、頼んだぞ」
「ウィッス。疫病神は他のお客様のエネルギーまでもっていっちまう」
「そういうことです。お引き取り願いましょう」

 さて、と冥夜はドアに手をかけた。
 夜のネオン街にその背中が溶け込んでいくのを、オランは静かに笑いながら見送った。
執筆:水野弥生
シンデレラ・シンドローム
「ねぇねぇ冥夜、次何飲むぅ? 今日冥夜にぜーったいラッソン歌わせちゃうから」
 耳慣れたポップスのクラブアレンジが響く店内。
 しなだれかかる女は安物の香水に、胸元の開いた数年前の流行の服。
 巻いた茶髪の根元は、一目で判る程に黒い部分が覗いていて――ブランド物のバッグと裏腹に、足元の汚れた靴がこの女を端的に表していた。
「無理しないでくださいね、ユカ様」
「でも……あ、冥夜って何処住んでるの? 犬と猫ならどっち派?」
「秘密です。どちらかと言えば――チワワがかわいいですし、犬でしょうか」

    *  *  *  

 バッグと紙袋と靴箱が乱雑に散らかる深夜の1K――その何層にも服が重ねられたベッドの上、暗い部屋に輝くのはaPhoneのライト。
 女は根元が伸びたスカルプネイルで、器用にフリック入力をする。

 249:名無しの姫様 202X年5月27日 03:24:48
 ユカ冥夜の本カノで同棲してるらしい

 250:名無しの姫様 202X年5月27日 03:47:22
 >>249 自演乙 色営本気にしてるブスw

 251:名無しの姫様 202X年5月27日 03:48:51
 >>250 色営じゃ│

「……っと、だめ。歌舞伎の裏のマンションで、一緒にチワワ飼うって言ったもんね」

 待っててね、冥夜。
 化粧の剥がれた女はひとり、ベッドでにたりと笑うのみ。
先輩には勝てない話
「やだも~、冥夜おもしろ~い」
「ふふ、恐縮です」
「冥ちゃんってぇ、ホストめちゃ向いてて恋バナも普通にノッてくれるけど、ぶっちゃけ本命どーなのぉ?」
「まさか。皆さんが本命ですよ」
「そーゆーの良いから。うちらもキャバだから分かるよ、一応ね」
「……叶いませんね。これから攻めて
行こうかと。信用は得てますので」
 きゃらきゃらと笑う彼女達が頑張れとそっと背を押した。
 今宵はそんな夜だった。
執筆:桜蝶 京嵐
『シャーマナイト』の遅い朝。或いは、酒は飲めども…。
●AM11:23
 再現性歌舞伎町1980街。
 ホストクラブ『シャーマナイト』の朝は遅い。
 明かりの消えた店内に、昼の日差しが差し込むころに決まって誰かが苦しそうな呻き声を漏らすのだ。
 のそり、と。
 並んだソファーとテーブルの間で、スーツを纏った男がゆっくり身を起こす。
 顔色は青白く、目の下には濃い隈が張り付いていた。
「……あ”ぁ”」
 頭を押さえて、男が呻く。
 歳の頃は20を少し過ぎた程度か。
 金に染めた髪はすっかりボサボサで、喉から漏れる声は酒に焼けている。
「なん……っ、あ、頭いてぇ」
 目を覚ますなり、強烈な頭痛が彼を襲った。
 割れるように頭が痛い。
 喉の奥から、胃液の匂いが逆流し、思わず数回、体を震わす。
「まったく……無茶な飲み方を」
 男の目の前に置かれたのは、水の入ったペットボトルだ。
 ペットボトルを差し出した男の名前は鵜来巣 冥夜。『シャーマナイト』のオーナーである。
「っ……っぉ」
「脱水ですかね……ったく、まずは水でも飲んだらどうです?」
 ペットボトルを取り上げて、男の額に押し付ける。
 キンキンに冷えたペットボトルが、火照った肌に心地いい。
 男……『シャーマナイト』の新人ホストである彼は、軽く会釈し冥夜の手からペットボトルを受け取った。
 蓋を開けて、まずはひと口、冷たい水を口に含んだ。
 ほんのりと檸檬の香りが付いた水である。水分を失った体が、急速に潤いを取り戻していく感覚がなんとも気持ちいい。
 1本分の水を一気に飲み干して、男は深く息を吐く。
 それから、視線を上げて冥夜へ向かって頭を下げた。
「ざっす、オーナー。いや、生き返る思いってのは、こういうのを言うんですね」
「キミ以外は誰もくたばっちゃいないけどな」
 呆れたように溜め息を零して、冥夜は男へ濡れ雑巾を投げつけた。
「? これは?」
「掃除ですよ、掃除。昼まで寝床を貸してやったんだから、せめて掃除ぐらいしていきなさい」

「っす。お疲れ様っす。あの、掃除終わりましたけど」
 小一時間ほど時間が過ぎて、新人ホストがそう言った。
 書類から顔を上げて、冥夜は時計を見やる。時刻は12時30分を過ぎた頃。
「ご苦労様。まぁ、あれだ……奢りますよ」
 付いてこい、と。
 新人ホストを引き連れて、冥夜は街へ繰り出した。
執筆:病み月

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