PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

野に咲くなんとか

関連キャラクター:ヴィルメイズ・サズ・ブロート

池の水乙女
 泡がはじけるように、女が笑う。住み家であるらしき池から身を出している彼女は、簡素な打楽器でゆったりとした拍子を刻んでいる。規則正しいように見えたそれは、時折悪戯のように変拍子が混じる。その結果、ヴィルメイズ・サズ・ブロートの舞に刺激と緊張を与えることとなっていた。
 そもそも、女との出会いがが不思議なものであった。いつものようにちょうど良い村の広場で踊り、いつものように握り飯を貰ったヴィルメイズは、村のはずれにある池の側でそれを食べていた。
 魚のほぐした身にマヨネーズを和えた具の握り飯は、程よい酸味とまろやかさを口の中に広げていく。これはいけると二つ目を口にしようとしたところで、悪戯な女の声が唐突に池の中からしたのであった。
「退屈で水がよどんできたから、私の為に踊っていただけない?」
 女はたゆたう水草めいた髪と、気まぐれな水の気配を宿す銀の瞳の持ち主であった。申し訳程度の薄衣を身に着けた彼女は、くすくすと笑って岸辺へと踊るように泳ぐ。
「お礼はあげる。口付けも、抱擁も、望むなら宝もあげるわ」
 ヴィルメイズは育ての親の精霊を思い出す。おそらく、似たような存在だろう、と。普通の女が水の中からいきなり現れるわけはないのだから。
「それならば、夕食が貰えると……嬉しいのですが。後、宿を」
 女は笑う。欲のない方! と大げさに驚いて見せながら。

 で、今に至る。もうどれほどの時間を舞い続けただろうか。ヴィルメイズがそれなりに適当に踊っていたとはいえ、体力は消耗するもの。そして女が奏でる、いつ混じるかわからない悪戯な変拍子が精神も休ませない。
 ゆるゆるとした旋回をからかうような七拍子が混じり、さらに悪戯をしてやろうと思ったのか、続けてこまかい十三拍子へと変わる。
 結局、伴奏が唐突に終わったのは夕刻。ヴィルメイズは通しで四時間以上舞っていたこととなったのであった。

「本当に寝床と夕食だけでよろしいのかしら……」
 女が用意した寝床は柔らかな苔が生えた洞。良い香りの柔らかな草を敷き、寝台としたらしい。
(やっぱりいい、とは言えないですし、明日は筋肉痛ですね)
 その日の夕食は嗅いだことのない香りの果実酒に、『好きなように調理なさい』と渡された数匹のイワナであった。
執筆:蔭沢 菫

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