PandoraPartyProject

幕間

野に咲くなんとか

関連キャラクター:ヴィルメイズ・サズ・ブロート

差し入れ
 この広場では、自由にショーを披露して良いらしい。右を見れば手品で観客を盛り上げているひとがいて、左を見れば楽器を奏でながら歌っている人がいる。

 ここならば、自分の舞も披露できるだろう。そう思って、近くのショーが落ち着いたときに、静かに靴を鳴らした。

 ふわりとひらめいた衣装に、観客がこちらを向く。広場を歩いていた人たちや、先ほどまで別のショーを見ていた人たちが一人、二人と集まって、ヴィルメイズの周りに輪を作っていく。
 この踊りは我流で身に着けたものだから、流派といったものがあるわけではない。ただ、観客にとってはそれが珍しいらしい。気が付けば一番近くにいる人が座っていて、後ろの人が見えるようにと気を配ってくれていた。

 舞を終えて、観客にお辞儀をする。観客にせがまれてもう一度披露し、それからおひねりを貰った。

「良い踊りだったよ」
「また見せてくれるかい?」

 手に持った箱に入れられていくお金。自分の踊りを気に入ってもらえたのだと思うと、素直に嬉しかった。

「これ、差し入れ」

 顔を赤くして包みを渡してきたのは、一人の少女。一番前に座って、ずっと舞を見てくれていた人だった。

「すごく綺麗だったから。どうぞ」

 包みを開けると、おにぎりが二つと、唐揚げが入っていた。

「良いのですか?」
「うん。そこで買ったばかりだから、まだほかほかだよ」

 包みはまだ温かく、唐揚げの表面もぱりっとしている。どうやら本当に、作りたてを持ってきてくれたらしい。
 丁度お腹が空いていたところだ。ありがたくいただくとしよう。

 少女に丁寧にお礼を言い、おにぎりをかじる。するとお米がほろほろとくずれて、ほのかな塩の香りが口の中に広がった。

「おいしいです」
「うん。また踊り、見せてね」

 喜んで。そう答えると、少女は恥ずかしそうに笑った。


 暖かな昼の、穏やかなひと時だった。
池の水乙女
 泡がはじけるように、女が笑う。住み家であるらしき池から身を出している彼女は、簡素な打楽器でゆったりとした拍子を刻んでいる。規則正しいように見えたそれは、時折悪戯のように変拍子が混じる。その結果、ヴィルメイズ・サズ・ブロートの舞に刺激と緊張を与えることとなっていた。
 そもそも、女との出会いがが不思議なものであった。いつものようにちょうど良い村の広場で踊り、いつものように握り飯を貰ったヴィルメイズは、村のはずれにある池の側でそれを食べていた。
 魚のほぐした身にマヨネーズを和えた具の握り飯は、程よい酸味とまろやかさを口の中に広げていく。これはいけると二つ目を口にしようとしたところで、悪戯な女の声が唐突に池の中からしたのであった。
「退屈で水がよどんできたから、私の為に踊っていただけない?」
 女はたゆたう水草めいた髪と、気まぐれな水の気配を宿す銀の瞳の持ち主であった。申し訳程度の薄衣を身に着けた彼女は、くすくすと笑って岸辺へと踊るように泳ぐ。
「お礼はあげる。口付けも、抱擁も、望むなら宝もあげるわ」
 ヴィルメイズは育ての親の精霊を思い出す。おそらく、似たような存在だろう、と。普通の女が水の中からいきなり現れるわけはないのだから。
「それならば、夕食が貰えると……嬉しいのですが。後、宿を」
 女は笑う。欲のない方! と大げさに驚いて見せながら。

 で、今に至る。もうどれほどの時間を舞い続けただろうか。ヴィルメイズがそれなりに適当に踊っていたとはいえ、体力は消耗するもの。そして女が奏でる、いつ混じるかわからない悪戯な変拍子が精神も休ませない。
 ゆるゆるとした旋回をからかうような七拍子が混じり、さらに悪戯をしてやろうと思ったのか、続けてこまかい十三拍子へと変わる。
 結局、伴奏が唐突に終わったのは夕刻。ヴィルメイズは通しで四時間以上舞っていたこととなったのであった。

「本当に寝床と夕食だけでよろしいのかしら……」
 女が用意した寝床は柔らかな苔が生えた洞。良い香りの柔らかな草を敷き、寝台としたらしい。
(やっぱりいい、とは言えないですし、明日は筋肉痛ですね)
 その日の夕食は嗅いだことのない香りの果実酒に、『好きなように調理なさい』と渡された数匹のイワナであった。
執筆:蔭沢 菫

PAGETOPPAGEBOTTOM