PandoraPartyProject

幕間

アルムのカフェ巡りノート

関連キャラクター:アルム・カンフローレル

本日の新刊は小さく可愛い喫茶店で
 小雨が降る中、茶色の小さな喫茶店。
 可愛らしい半円形の窓が特徴の店に銀髪の青年が訪れる。
 日替わりのケーキセットを頼み、麻の鞄から本を取り出す。
 いつも行く書店で本日の新刊と書かれた中から、表紙で選んでみた一冊だ。
「さあ、君はどんな物語に連れていってくれるんだい……?」
執筆:桜蝶 京嵐
Afternoon
 練達のちょっとしたビルの2階にある、小さな喫茶店。
 狭い店内にはアンティークなオルゴールやら絵やらが飾られており、紳士淑女が楽しげに会話を繰り広げている。
 アルムはそんな喫茶店の隅の小さなテーブルに腰かけ、店内を見渡す。
 店主は趣味なのだろうか、よくよく見てみるとドアノブやら壁紙やらに猫のシルエットがあしらわれている。
 古めかしい本棚には、何となく気になるようなタイトルの小説が並び、まさしく贅沢な時間が流れている。

「これはまた……練達にもこんなところがあるんだねぇ。」

 ホッと一息つき、持っていた本を開いて読み進めていく。
 ゆったり、のんびりとした時間が、スコーンを焼く時のバターの香りとともに流れていくのを感じながら。
執筆:水野弥生
偶には抹茶でまったりと
 今日は豊穣の一角、青々とした緑が美しい樹々に囲まれた茶店で一服。
 縁台に腰掛け、赤い傘の下でアルムはお気に入りの本を読みながら注文の品を待っていた。
 頁の文字を夢中で追っていたアルムだが、店員の「お待たせしました」という声で我に帰る。
 今日のメニューは栗饅頭と濃い目に淹れた抹茶。
 珈琲も合いますよ、と店員は勧めてくれたがせっかく豊穣に来たならばお茶を楽しみたい。
 読みかけの本に栞を挟んで傍に置く。そっと皿を持ち上げ栗饅頭をぱくりと一口。
 ほっくりした栗の食感と控えめな甘さが読書で疲れた脳にじんわり沁みて、アルムは目を細めた。
 続いて、抹茶を啜る。
「んっ!!」
 慌てて受け皿へ湯呑みを戻し、椅子に置く。苦いお茶というイメージはあったが、想像以上だった。甘いお菓子を先に食べたから余計だろうか? でも、嫌な苦みではない。むしろお茶の良い香りがして、上品な味。とでも言えば良いのだろうか。
 今度は先に抹茶を飲んでから、栗饅頭をぱくり。
(あっ、美味しい……)
 本来は抹茶の味を引き立てる為に、甘いお茶菓子を出すのだが逆もまた然り。また、此処に順番が違うなどと咎める無粋者は居ない。

 小鳥が囀って、初夏の爽やかな風がアルムの長い髪を揺らす。うっかりすると寝てしまいそうな心地良さ。そんな昼下がりの一幕。
執筆:
泛泛
 有りと有らゆる壁が足元から天井迄、本棚で出来ていると噂の喫茶店に訪れたアルムは少し低めのドアを潜って息を飲む。

 其処は、本の城だった。
 其処は、本の海だった。
 其処は、本の褥だった。

 純文学、大衆文学。
 貴重な事が其の佇まいだけで窺い識れる様な稀覯本。
 美しい装丁の図鑑に誰かの泪が染みた画集。
 古今東西の漫画本。
 自費出版書。
 雑誌類、新聞。

 呆気に取られている青年にカウンターから妙齢の店主が、『いらっしゃい、初めまして。カウンター席は喫煙可。二階は禁煙でテーブル席よ』と笑い掛けた。
 ――静かに長居したいなら上が良いわ。本は手に取ったら帰りに元の場所に戻してね。
「有難う御座います、是だけあると先ず何れを読もうかすら悩んでしまいそうだな」
 ――趣味で始めたのだけれど、段々お客さんが好きな本や読み終えた本を持ち込む様になったの。そうしたらもう御覧の有り様!
「成る程、では今度俺もお勧めの本を持って来ても?」
 ――喜んで、お客さんご注文は? 初めてなら『Cà phê sữa』がお勧め。
「では其れと後は……」

 うんと時間を掛けて選んだ一冊は、此の混沌に招かれた旅人が記憶の限りを尽くし書き上げたらしき何処かの国の誰かの詩集。
 『私は此の歌人の本を愛してゐた。様々な翻訳を読み漁る事に青春と僅か少ない賃金を捧げる日々だった。其処で書き起こす事を決めたものの、併し訳者の先生方には当然乍ら敵わんのです。退屈させてしまうだけかと思うが、もう二度とは戻れない故郷を思い綴りたいと想う』
 そんな前書きで始まるが、直ぐに其れが謙遜であったと理解した。
 美しい言葉遣い、情緒豊かでクスリと来る言い回し。作者への敬愛に溢れ、何度も書き直した事が窺い知れる修正液の跡。

 ――お待たせしました、此方お飲み物と季節のフルーツタルトで御座います。
「どうも。あ、一冊お借りしています」
 ――あら? 其の本がお気に召したかしら。持って帰っても良いわよ、何時誰が置いて行ったかも判らなかったものだから。
執筆:しらね葵
アイスクリーム
 アイスクリームを頼んだら思っていた数倍のサイズが出てきた。
 最早バケツとしか形容出来ず、これでもかとバニラ色が聳えている。
 不意を打たれて茫然と、オマエは読みかけの本を新品の鞄にしまった。
 ――えっと。店員さん、注文したのと大きさ間違ってないかい?
 ――こちらLサイズでございます。LoveのLですね。一緒にcraftコーラは如何でしょうか。
 ――は、はい。ありがとうございます。
 改めてメニュー表を見る。
 如何やらこのお店の名物らしく一人で食べきると脳味噌が愛でいっぱいになるらしい。
 ああ、頭が痛くなりそうだ。
執筆:にゃあら
雨降りからの出会い
 文具カフェなるものがあるらしい。
 身近な筆記具からインクに絵の具、一般的な紙以外にも羊皮紙から特殊な加工の施された物まで様々なものが置いてあり、加えて、カフェに併設された書架には文具を中心とした書籍が陳列されているという。

 運悪く雨に降られたアルムがカフェを訪れたのは、本当に偶然のことだった。
 雨宿り先を求めていたアルムは、カフェの名に心惹かれドアベルを鳴らして扉を潜る。小さな店内には壁一面に文具と本が、手にとってと訴えるように並んでいた。
 銀の髪から水が滴り落ちる前に、好意でふかふかのタオルを借り受け、店内で一番暖かな席へ案内された。
 程なくして頼んだ店主自慢の紅茶が運ばれる。それからホイップクリームとイチゴとブルーベリーのジャムが添えられたスコーンも。
 おすすめされた通り、スコーンにはたっぷりクリームを乗せイチゴジャムとともに口へ運ぶ。スコーンとクリームの甘さに、イチゴの酸味が良く合う――というのが店主の言だった。

 テーブルのそばには『ご自由にご利用ください』というメッセージとともにいくつかの文具とノートがあった。
 それから『必見!今をトキメク文房具100選』なる本も。

 ノートはカフェ利用者たちの交流の場になっているようだった。店内で利用できるあらゆる筆記具が使われているようで、カラフルな色鉛筆から墨文字といったように個性が豊かだった。
 そこに記入されたものは文具や店の感想以外にも、おすすめ書籍の紹介もされていた。
「『恋するインク〜恋文のキホン〜』この本で恋が叶いました――いや〜青春だねぇ」
 紅茶を口にあるいはスコーンを食べながら、アルムは他のページにも目を通していく。文具カフェという特性上、文房具にまつわる本が多いようだったが、時折違うジャンルの書籍も話題にあった。
「ああこの推理小説はやはり評判が良さそうだ」
 特性故に詳細が秘められた感想に、次はその本を候補に入れる。

 服はすっかり乾いたものの、未だ雨は止む気配がない。店主に紅茶のおかわりを頼みアルムは席を立つ。
 どのみちまだ雨は止まない。
 せっかくだからたまには違う分野に手を出してみるのも良いだろう、と。
『トキメク文房具』片手にアルムは書架へ手を伸ばしたのだ。

執筆:いつき

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