幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
セララの幕間
セララの幕間
関連キャラクター:セララ
- ドーナツ屋訪問記・境界編
- 境界。境界図書館とも呼ばれるその場所は、果ての迷宮で見つかった巨大なる図書館。
そこに所蔵されているライブノベルと呼ばれる本のうちのひとつ、『退廃世界グノーシス』へ境界案内人ミヤコの案内によってセララはやって来ていた。
目的は勿論ドーナツ、である。
ーーだからといってなんでここに来るんだ。
怪訝そうに、そして面倒臭そうに聞く海(カイ)。この男も境界案内人だ。
なにしろこの世界、グノーシスは文明が既に滅んだ世界なのだ。
生き残った人類もカイ以外は見つかっていない。
ドーナツ屋などあろうものか。
「迎えに来たんだ、カイ!」
セララは一度だけこの男と会った事がある。そのあたりの話は置いておくとして。
ーー……迎えに?
ミヤコに案内されたのだろうが……。
彼女にはカイ自身も世話になった事実がある。あるのだが、嫌な予感しかしない。
「とにかく図書館に来てほしい」
真っすぐな目でカイを見るセララ。
ーー……。
溜息をつきながらセララと共に境界図書館に戻るカイであった。
図書館に帰り、セララはカイを調理室に案内した。
ーー……これは?
カイに気付いたミヤコが近寄る。
ーーああ、カイ。来てくれたのか。
説明しろ、と言わんばかりに目を細めるカイ。
「カイにはドーナツ作りを手伝ってほしいんだ」
ーー……は?ドーナツ、作り?
ーー本当ならどこかのライブノベルに案内しても良かったんだけど。どうせなら皆でドーナツを作って食べよう、ていう話になってね。
キッチン台を見ればドーナツの材料であろう、一式が並べられている。
これを準備する為にミヤコは来なかったのか。
こんなところまで来て帰る、などと言うのは通用しないだろう。
ーーわかったわかった。やればいいんだろう。
「ありがとう!カイ!」
満面の笑みを浮かべるセララ。
ちなみにだが今回使う材料。
ライブノベルに入り、調達してきたものである。しかも複数のライブノベル。
そういえばミヤコの料理スキルは如何程なのか。
カイはグノーシスで動物を狩り、解体・調理をしているから刃物自体は扱えるだろう。火も大丈夫のはずだ。
ミヤコは……未知数だ。
「今更なんだけど。ミヤコって料理できるの?」
ーー私かい?できるよ?
聞けばお酒のアテをよく作っているらしい。
そういえば書斎にお酒の瓶数本と何かを食べたような跡があった。
あれはそういう事なのか。
実際二人とも手際が良い。
カイに関しては流石にお菓子作りはやった事がなかったようだが、教えれば飲み込みが早い。
今回のレシピは比較的簡単なものを選んだが、これなら後は放っておいても問題はないだろう。
料理はやはり複数人でやると楽しい。
一人でやる料理も決して悪くはないのだが、こうして誰かとお喋りしながら料理するのがいいのだ。
しばらくして。
ーーやっと出来たか。
疲れたと言わんばかりのカイだが、満更でもなさそうだ。
ーー楽しんでいたようだが?
ーーまあな。
「今日は付き合ってくれてありがとう、二人とも!」
終始仲の良い三人だったが、様子を見に来た境界案内人いわく。
仲の良い親子のようだった、という。
カイがお父さんでミヤコがお姉さんで、などという空想をしながら三人でドーナツを食べるセララであった。 - 執筆:アルク