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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

穏やかな日々

関連キャラクター:伊達 千尋

白詰草

 白い花が揺れていた。
 薫る風には初夏の色を乗せて。緩く編まれた柔い黒髪を悪戯に浚うのは、聖夜(あのひ)のくだらないプライドを嘲笑っているのだろうか。
 草の息吹。薄く色付いた花の名前。些細な息遣い、鼓動、ひとつひとつ。落ちこぼれだと揶揄された彼女が見つけていた、大切な宝物。
 もしも彼女と出会わなければ――春の桜色、曇った空を花曇りということすらも、知らなかっただろう。
「伊達さん、伊達さん」
「ん?」
「此方を……っと。ふふ、どうぞ」
 千尋の頭には少しだけ小さいか。白詰草で編まれた冠を、そうっと、壊れ物に触れるように乗せて。
「一生懸命編んでたのに、俺じゃイカつくなるぜ?」
「いいえ。伊達さんのために作りましたから……す、少しだけ、小さいですけれど!」
「……そっか。ありがとな、寿ちゃん」
「わ、わ! ……えへへ、どういたしまして」
 ひなたの温もりをぎゅうと閉じ込めたような温もりを持った堅い掌が千尋の手に触れる。それはとても小さくて、けれど大切な――
「……ンじゃ、俺も寿ちゃんに作っちゃおうかな、冠!」
「いいんですか?」
「優しいレディにはとっておきのティアラが必要って、御伽噺にも書いてあるんだぜ?」
「そ、そうなんですね……!」
 草むらに丸まった背中がふたつ。不器用な大きい掌と優しい小さな掌は――穏やかに寄り添って。
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