PandoraPartyProject

幕間

穏やかな日々

関連キャラクター:伊達 千尋

麦茶と縁側
 縁側で、千尋と寿は涼んでいた。
 つい先日まで桜の季節だと思っていたのに、もう躑躅が散りかけている。
 季節の移ろいが年を重ねるごとに早く感じるようになった。

 寿と他愛ない会話をし、時に笑い時に頷く。
 そんな穏やかで優しい時間。

「今、冷たいお茶を持ってきますね」
「ありがと、寿ちゃん」
 ぱたぱたと台所へ駆けていく寿の小さな背中を千尋は眺めた。
 少し力を込めて抱きしめれば簡単に壊れてしまいそうな華奢な背中だった。
「俺が護らねェとな……」
 一人呟いた言葉は寿には聞こえていない。
 千尋は再度前を向く。
 バイクに乗っている時に身体で切る風も疾走感があって好きだが、こうして寿と共に縁側で過ごしている時に頬を撫でる風も優しくて好きだった。
 目を閉じれば風が木々を揺らす音と、ちちと小鳥が愛らしく囀る声が聞こえてくる。

「伊達さん?」
「あっ、ごめん。ボーっとしてた」
 差し出された麦茶を受け取り、千尋はグラスを傾ける。
 冷えた麦茶は蒸し暑くなってきたこの頃にぴったりで、喉の渇きを潤してくれる。
「うめぇなあ、寿ちゃんの麦茶やっぱ好きだわ」
「お粗末様です」

 平和で暖かな陽だまりの日々はずっと続いていく。
執筆:
白詰草

 白い花が揺れていた。
 薫る風には初夏の色を乗せて。緩く編まれた柔い黒髪を悪戯に浚うのは、聖夜(あのひ)のくだらないプライドを嘲笑っているのだろうか。
 草の息吹。薄く色付いた花の名前。些細な息遣い、鼓動、ひとつひとつ。落ちこぼれだと揶揄された彼女が見つけていた、大切な宝物。
 もしも彼女と出会わなければ――春の桜色、曇った空を花曇りということすらも、知らなかっただろう。
「伊達さん、伊達さん」
「ん?」
「此方を……っと。ふふ、どうぞ」
 千尋の頭には少しだけ小さいか。白詰草で編まれた冠を、そうっと、壊れ物に触れるように乗せて。
「一生懸命編んでたのに、俺じゃイカつくなるぜ?」
「いいえ。伊達さんのために作りましたから……す、少しだけ、小さいですけれど!」
「……そっか。ありがとな、寿ちゃん」
「わ、わ! ……えへへ、どういたしまして」
 ひなたの温もりをぎゅうと閉じ込めたような温もりを持った堅い掌が千尋の手に触れる。それはとても小さくて、けれど大切な――
「……ンじゃ、俺も寿ちゃんに作っちゃおうかな、冠!」
「いいんですか?」
「優しいレディにはとっておきのティアラが必要って、御伽噺にも書いてあるんだぜ?」
「そ、そうなんですね……!」
 草むらに丸まった背中がふたつ。不器用な大きい掌と優しい小さな掌は――穏やかに寄り添って。
執筆:
てるてる坊主

「……あ」
「千尋さん?」
 居間のテレビを見て声をあげた千尋に寿は瞬いた。
 もうすぐ六月。つまり梅雨が近付いてくる。それよりも先にピクニックにいこうと計画していたのに、ピクニック当日の今週末は狙ったかのように降水確率100%。なんでや。
「寿ちゃんどうすっぺ。俺は予定変えるのも出来るけど、寿ちゃんにも予定あるだろうし」
「……てるてる坊主」
「ん?」
「てるてる坊主、作りましょう!」
 きゅっと手で小さな拳を作った寿は、押し入れからせかせかと余り布を用意する。
「せっかく作るんですから、おめかしさせてあげませんと」
「寿ちゃんてば天才か?」
「え、えへへ」
 頭につめるのはふわふわのティッシュペーパー。ボタンを目の代わりにして、ぶらさげるときはリボンで。
 最初こそ週末に雨が降らないようにと願っていたはずなのに、いつのまにやら作るのが楽しくなってしまった。
「寿ちゃん、俺の見てくんね?」
「これは……猫ちゃん……!!」
「正解花丸百点満点! 遊び心を加えるのも職人技ってワケよ」
「なるほど……はっ、私もうさきざんなんかを作ってみたりしても?」
「モチのロン!」
 そうして。ふたりの努力の甲斐あってか、ティッシュを一箱使い果たして作り上げたてるてる坊主の大家族は、ずらりと縁側に並んだ。
「これで晴れると良いのですが……」

 ――そして、週末。
「やっべ、おにぎりデカすぎた」
「は、半分に……わっ、わ、鮭が!」
「寿ちゃんヘルプミー!!」
 朝からせかせかと、ふたりならんでおにぎりを握る。午後から晴れるのだと告げる天気予報。てるてる坊主の効果だろうか、降水確率に見事打ち勝ったのだ。
 ふたり仲良くキッチンに並んでお握りを握る姿は大変なかむつまじく。
「……って、ああ! 卵焼き、焼いてません……!」
「お握りは俺に任せな! 寿ちゃんは卵焼きを頼むぜ……」
「はい、千尋さんとお弁当のためにがんばります!!」
執筆:

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