PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

ディルク様とのあれそれ

関連キャラクター:エルス・ティーネ

負けました
「……」
「……………」
「……………………」
 暗鬱なイベントというものは確かに存在するものだ。
 乙女にとってみれば大抵の場合、世界が華やいで見える『好きな人』との一幕も。
 そんな相手の期待を『裏切った』報告をしなければならないのならばひとしおだ。
 大会の喧騒も冷めやらぬ内に控室に顔を出したディルクの顔をエルスはおどおどと覗き込むばかりであった。
「あの、その……」
「あん」
「……その、ハイ。負けてしまいました。頑張ったんですが、えっと……」
 第百五十七回目を数えたイレギュラーズの闘技大会は特別な様相を呈していた。
 勝ち残ったのは順当と言える強豪のドラマと、このエルス。
 大一番の初顔合わせだが、二人は互いに知る顔で別に不仲ではない。
 問題はこの二人の可愛らしい女の子がそれぞれ、ローレットの長であるレオンと、このラサの王であるディルク……
 因縁浅からぬライバルにとって比較的特別と言える存在だった事の方であった。
「……負けました」
 何とも機嫌の悪そうなディルクの様子にそう言うエルスは雨に打たれた子犬のようであった。
 そう、これは代理戦争めいていた。
 終生のライバルと称される二人の、決着の決してつかなかった二人の代理戦争。
 ……超自信家でプライドの塊であるディルクの代表としてこれに敗れてしまったのだからエルスは痛恨の極みである。
(でも、ディルク様。私、頑張ったんですよ?)
 相手は闘技場で上位常連のドラマである。レオンから直接手ほどきも受けている。
 エルスが食らいつく戦いになるのは必然だった。決勝は十分な盛り上がりの末の結果だったのだからやり切った思いもある。
「……ったく」
 呆れたように嘆息したディルクがエルスの方へ歩み寄った。
 無遠慮にぬっと伸ばされたその手にエルスは一瞬委縮する。
 しかし。
「……ふぇ?」
 意地悪な人の事だから。想定された『お仕置き』はやって来なかった。
 小柄なエルスの頭をわしわしと撫でたディルクは先とはまるで違う表情でいる。
「良くやった」
「……あ」
 それでエルスは遅ればせながらに合点するのだ。
 この男、わざと引っかけやがったのだ!
「……もう、本当に! 滅茶苦茶緊張して……頑張ったんですよ、本当に!」
 緊張感から一気に解放されたエルスは珍しく唇を尖らせて抗議めいた。
「それなのにディルク様って言ったらそうやっていつも私を玩具にして!!!」
「あー」
「聞いてますか!? 酷いですよ!」
「んー」
「試合直前に! ディルク様の女とか言うから変な試合は出来ないと……!」
 頭をぼりぼりと掻いたディルクはエルスの顎を持ち上げた。
「ふぇ?」
「――聞いてねえ」
「!? !!! !? !?」
 古来から煩い子供を黙らせる方法は決まっていると言わんばかりだ。
 それはずるい方法に違いなかったが、成る程。この男にすれば恐らくは最効率に違いなかった。
執筆:YAMIDEITEI

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