PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

ディルク様とのあれそれ

関連キャラクター:エルス・ティーネ

乾いて飢えて
 曰く銀に弱いだとか。
 曰く白木の杭で滅びるだとか。
 流水を渡れないだとか、鏡に映らないだとか、十字架や大蒜が嫌いだとか――
 伝承に存在する吸血鬼はそれ自体が千差万別だ。
 複数のそれに一定の共通点を見出す事が可能だとしても、一つの像を絞り込む事は難しかろう。
 しかしながら、『月』に関する話は一定に信頼がおけるものとも考えられる。
 吸血鬼のみならず、月の魔性は昔から多くの人々に信じられてきたものだ。
 それ自体が神秘を孕み、魔的なシンボルとしての意味を持つというのなら――吸血鬼の有り様も決して例外にはしないだろう。
「……で」
 ディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)はラサの『君主』である。
 宮殿の中庭の向こうに覗く真円の月は実に煌々とした輝きを放っている。
 壁に寄り掛かるようにして外廊下で『待っていた』彼の視線の先には、苦しげな貌をした『赤毛の女』が立っていた。
 何十年だか何百年だか振りの天体ショウに浮かれるでもないその姿はどちらかと言えば痛々しさを覚えさせるものである。
「難儀な体質は承知しちゃいるが、こんな時間にお出かけは――聞いてねぇな」
「……っ……!」
 普段はディルクが顔を見せれば尻尾でも振っていそうなエルス・ティーネ(p3p007325)だが、伏し目がちの視線は彷徨う。
 見られたくないものを見られてしまった、罰の悪さを思わせる彼女は『彼』の出方が分からずに惑っていた。
「しんどいんだろ? 『満月』は」
「……はい」
 吸血鬼ならぬディルクにエルスの事情は共有出来まい。
 されど、振り絞るように頷いたエルスに彼はさもありなん、という顔をした。
「それでご迷惑にならないように、ね。相変わらずピントのずれたお嬢ちゃんだこと」
「それは、でも――」
 言いかけたエルスを遮るようにディルクは笑う。
「――来なよ、こっちに。まあ、俺ならアンタがどんなに荒れても暴れても簡単さ。
『どう』なるのかは知らねぇが、何なら噛みついたって構わんぜ」
「……ディルク様!?」
 どうもその状態のエルスを外に出したくはないらしい。
 そう見受けられるディルクは「そうそう」と一言余計な言葉を付け足した。
「まぁ、噛みついてきたら――俺が食っちまうかも知れねーが」
執筆:YAMIDEITEI

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