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ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤの風間日による関係者2人+PCピンナップクリスマス2023
イラストSS
蝋燭要らずの夜だった。船体へ寄せる波も穏やかで、海風まで気を利かせるよう。故に——
「やっぱり此処に居たのか」
「見つかっちまったか」
——オースヴィーヴルの呼び掛けに応え、肩をすくめてみせたソルステインのそれは実にわざとらしい
「こんな日くらい、休んだ方が良いんじゃないか?」
海上の道標たる星々は、祝祭を彩るイルミネーションとしては随分と質素なもの。声を張り上げねば隣席とも会話の成り立たぬ酒場とは何もかもが真逆だ。これで背後から近付く軋みを聞き逃すようでは命がいくらあっても足りやしない。
もっとも、探しに来るだろうという予測が頭の片隅にあったのも事実で、つまるところ『やっぱり』はソルステインの台詞でもあった。
「船を出せる日が待ちきれなくてよ」
鉄帝国に占領された旧ヴィーザル。そこで生きる彼らにとって貿易の再開は、先の動乱収拾における功績をカードに交渉を重ねてやっと掴んだ戦利品だった。
誰もがその日へ向けて奔走する中で迎えたシャイネンナハトは近年で最も輝かしい、文句通りの賑わいとなっていた。互いを讃え、何の憚りなく笑い、喰らう。ギリギリと張り詰めていた日々の終わりを大いに祝うために。
とは言え、足踏みし続けた心に据わりの悪さを覚えることもあるだろう。そうして人の輪を抜け出した訳だが、彼のために携えられた酒瓶と微笑みを見ては足を休めざるを得なかった。
「まあソルステイン、これでも飲め」
今日までの労いと共に注がれたアルコールは、にっかりと開いた口から一斉に流し込む。喉から胸へと落ち、全身を巡る冷たい熱源。こんなに旨いものがあるもんか、と吐いた息は深く深く実感を伴って。
「こりゃいつかの逆だな。親方の酒じゃ断れねえ。今日はここらで切り上げるとしますかね」
わかりきった応答を前菜に。木箱に並んで腰を下ろし、再び満ちた杯と瓶を打ち鳴らす。尽くされた恩と尽きない先の展望を乗せた音は濤声よりも号砲よりも優しく、けれど確かに空へと放たれた。
「なあ親方、楽しみだな。これで全部元通りになる」
「……そうだな。長い道のりだったが、ようやく此処まで来れた」
共に駆け抜けた航跡を想えば酒も時間もあまりに心許ない。それでもまだ、語る口がある限りは——
——乾杯を、祝杯を、重ねよう。ようやく漕ぎ着けた自由に。漕ぎ出した未来に。