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佐藤 美咲のなあのりしによるおまけイラスト
イラストSS
『Wheel of Fortune』
結局、答えなんて見えないままだった。
死は救済だといった『彼女』に。
そして『まともじゃない』と切り捨てた『彼女』にも。
「ぶっちゃけ、効きましたね」
「……」
「私にもちょっと刺さったので」
どこからかと言われれば、出会ったときにはそうだったと思う。
安心と不安とがないまぜになったほむらの視線を背に、美咲は自嘲気味にほほ笑むしかなく。横目に見えた彼女の瞳は、まだ潤んでいて。
ばつのわるさからか、それとも満を持してか。
あるいはそのどちらとも知れない心境か。
とはいえこの場で組織仕込みの自己分析などするつもりもなく、ともかくとして、美咲はとつとつと語り始めた。
「私ね、昔死ぬつもりで飛び降りた事があって」
「はい」
「ちょっと死にそうになったとき、もう良いかなと思って」
柵の縁へ、そっと両手をかける。
「こんな感じで立って、背中からぴゅーっと」
「……」
「まあ着地したのが空中神殿だったから今ここに居るんスけど」
「ありますよ、私も。試してはいないけど、グッズまで買ったぐらいまでは」
「……」
「炭はミスが怖くて、吊るのも破損しそうで、ODじゃ吐きそう」
「わかりまス」
「肉体は勝手に死を拒絶するから、意思じゃどうにもならない」
ほむらは美咲の隣で、同じように柵へ背を預けた。
「何よりちゃんと準備する元気がなくって」
中途半端に失敗したら、すべてが台無しだから。
「結局、私は過労でした。たぶんエコノミークラスとかそういうやつ」
実感という主観は常に正しいとは限らず、客観的な明言は出来ないが。
その時ほむらは「死んだ」と思ったのだという。
空中神殿にやってきた日の事だ。
だから初めはこの世界を、臨死上の脳が見せた空想か何かだと信じていた。
「あの時、私『やっと終わった』ことに、心底ほっとしたんですよ」
――だから。
「ほんとは『死ぬな』なんて、偉そうに言う資格ないんです」
「資格……スか」
「もっと言えば私は、やり直したいとすら思えなかった」
隣からしゃくりあげる声がして、けれど聞いてほしくなさそうだったから、美咲はあえて無視を決め込んだ。長くも短くもない付き合いの中で、それが最適だと知っていたからだ。
「エゴなんでしょうね、死んでほしくないとか思うのって」
「……」
「自分が言われたら、心底困ります。けど、本心だからしょうがない」
「……スか」
「なので謝りません」
ほむらが震えた声のまま笑う。
「概念は否定できないんです、冠位風情に出来るわけないと思っただけで」
――死は救済である。
結局その反論は出せないままだった。
美咲にも、そしてほむらにも。けれど――
「今は、もう、大丈夫」
理由は、泣いてくれた人が居るからなんて、言わないでおくけれど。
――ありがとね。
※SS担当者:pipi