イラストSS

　シャイネンナハト――クリスマスとも言われる、無数の流星が瞬く聖夜。
　世間はホリデーシーズン。浮かれたお祝いムードに包まれて活気づく街の雰囲気にも影響され、楊枝 茄子子はふらふらと聖夜の街の散策に出かけた。
　茄子子はかつての仲間であるローレット・イレギュラーズ――ヴァレーリヤ＝ダニーロヴナ＝マヤコフスカヤの姿を散策中に見つけた。茄子子は遂行者となった者の、声を掛けずにはいられなかった。
　シャイネンナハトは、大昔の伝説になぞらえて争いを禁じられた日でもある。そんな日であれば、ヴァレーリヤも許してくれるはず。
　声を弾ませて呼びかけた茄子子に対し、ヴァレーリヤもにこやかに手を振り返す。２人は笑顔で再会を果たす――ように見えたが、茄子子は自身の判断を後悔することになる。次の瞬間、駆け寄ってきたヴァレーリヤは、茄子子目掛けて手にしていた酒瓶を振り下ろしてきた。ヴァレーリヤの行動はあまりにも唐突だったが、茄子子は寸前で避け切る。尻もちを着きそうになりながらも、茄子子は慌ててヴァレーリヤから距離を置いた。
　凶行に走ったヴァレーリヤは茄子子と向かい合い、今にもまた襲いかかりそうな気配をひしひしと感じさせた。
「残念でしたわね～～～～！　遂行者になった以上、ハイルールは適用対象外！！　つまり略奪し放題なんですのよ！！！」
　凶悪に歪む笑みを向けるヴァレーリヤには、シャイネンナハトのしきたりは通用しなかった。
「さあ、私の酒代を置いて行きなさい！！！！」
　もはやかつての仲間という立場は通用しない。茄子子はとてつもない悪魔に出会った心境で、その場から逃げ出した。
「やだ！　やめて！　お金無いです！　持ってないです！！」
　必死に叫ぶ茄子子の後を、ヴァレーリヤはどこまでも追いかけてくる。
「おほほほほほ、待ちなさい！　止まりなさい！！　私の楽しい夜のために！！！」
「いやああああああああ！！！！」
　逃走劇を繰り広げる２人の声は路地の間で反響し、夜闇の向こうに消えていった。

　※SS担当：夏雨