PandoraPartyProject

イラスト詳細

親指の思慕

作者 sima
人物 ジェック・アーロン
御天道・タント
イラスト種別 2人ピンナップクリスマス2023(サイズアップ)
登録されているアルバム
納品日 2023年12月24日

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イラストSS

「ジェック様なら、何を喜ばれるでしょうか」
 いや、答えは一つ。なんでも喜んでくれるに決まっている。
 彼女に甘えているのではなく、ジェックの溺愛具合からそう判断しているだけのことなのだ。
 何をあげたとしても、きっと素敵な笑顔で喜んでくれると思うのだけれど。それはそれとして、とびきりのいいものを贈りたいと思ってしまう乙女心なのである。
「うーん、タントにあげるもの……」
 場所を変えて。ジェックもまた、タントにあげるものを悩んでいた。
 可愛い靴を履いて喜ぶタントがみたい。タントの長い髪を梳いてあげるためのブラシもいいかもしれない。あのぬいぐるみなんてタントが抱きしめていたらきっととびきりかわいいこと間違いない。
 何をあげたって可愛らしい声をあげてくれることだろうから、全部あげたい。だけどそんなことをしては次に贈れるものがなくなってしまう。
 約束の時間まではまだあるから、余裕をもって。けれどしばらく店の前を右往左往するジェックが見られたのだとか。

「ジェック様!」
「タント。ごめん、待たせちゃったね」
「いいえ、こうして待っている時間もとっても楽しかったのですわ!」
「でもこんなに鼻も、ほっぺも赤くなっちゃった」
「ジェック様の手が冷えてしまいますわ……!」
「んふ。でもタントをあっためたいから」
「ではこういたしましょう!」
 両頬を包んでいたジェックの手を取り、繋ぐ。それだけの仕草でジェックの心は温かいもので満ちていく。
「あちらにホットワインのお店がありましたので、ジェック様と飲みながら帰りたいのですけれど。いかが?」
「名案だね、タント。そうしよう」
 ぎゅっとタントの手を握り返す。人差し指の先、目当ての店を案内してくれるタントの横顔を眺めながら、二人はイルミネーションの並木を進んでいく。
「でも、タント」
「はい、どうなさいました?」
「ちょっとだけこっち、来れる?」
 冷たいまま待たせてしまった。そのお詫び。それから。
「ジェック様?!」
「ごめんね。アタシがしたかったの」
「わ、わたくしもしたかったですけれど……ここ、お外ですわよ……?」
「大丈夫、ちゃんと周りは確認したからさ。ね?」
「う、う、ずるいですわ……!!」
「あんまり騒ぐとバレちゃうよ?」
「ジェック様のせいですわよ~~~!!!」
 親指で口を拭う。ほんのりホットワインの味がした。

「さて。飾りつけも済んだことだし」
「パーティ! ですわ~!」
「今年はケーキも奮発したし、チキンも買っちゃったね」
「でもでも、やっぱり今日ばっかりは仕方ありませんわ!」
「だね。美味しいものは楽しく美味しく食べなくっちゃ損だし」
 去年は徹夜で朝を迎えたのだったっけ。去年と比べてみても今年はまた大きく変わってしまったことが多い。
 特に、ジェックに。
「また一段と、美しくなられましたね」
「ふふ。そうかな。タントにはそう見える?」
「ええ、ええ。自慢の恋人ですわ!」
 ウェーブのロングヘアだって似合っていたけれど。華奢な背中を眺めているのも楽しかったけれど。
 短い髪が、その毛先が頬を擽るときの嬉しさを上回るものはないし。大きな翼がすっぽりとタントの身体を覆ってしまうのだってわくわくして仕方がない。
 だから、だいすき。変わることのない心。
「でもさ、タント。これからはもう、違うでしょ?」
「……ジェック様の、いじわる」
「えぇ、二人で決めたのに?」
「なんだか大人っぽくなられている気がしますわ! んもう……」
「ふふ、ごめんね。タントが可愛くって仕方がないんだよ」
「ジェック様もとびきり可愛らしいのですわ。お忘れなく!」
 可愛いの言い合いだなんて、仲がいいのか悪いのか。どちらかともなく笑いあって、そうしてお腹が痛くなって、満足して。
 二人で決めた今年のシャイネンナハトのプレゼントのひとつ。二人で箱を開いては、目を輝かせた。
「すごいね」
「はい、とても……ジェック様。お手を拝借しても?」
「うん、どうぞ」
「なんだか緊張してしまいますわ……!」
 左手の薬指に、指輪を。大切な貴女に贈る。
 震えるタントの手がジェックの華奢な指に指輪を嵌めていく。
「とってもどきどきしましたわ……!」
「じゃあ次はアタシの番だね」
「はい、お願いいたしますわ、ジェック様……!」
 タントの手は温かいな、なんて思いながら、その指に同じく指輪を嵌める。
 気が付けば息を止めていたみたいで、安心したらはぁと息が漏れた。
「ジェック様?」
「ううん。なんだか安心しただけ」
「ふふ。わたくしも、これでジェック様といつまでも繋がっていられるような気がしますわ」
「違うよ、タント。気がする、じゃなくてそうなんだよ」
「! はい、そうでしたわね……!」
「うん、いい子。これからもずっと、一緒にいようね」
「はい、はい、もちろんですわ……!」
 左手の小指を絡める。小指に乗せた恋情。愛しい薬指の重み、約束。
 ぎゅっと抱きしめた身体はあたたかくて、いとおしくて。
「ジェック様、ジェック様」
「どうしたの?」
「わたくし、世界で一番幸せ者ですわ……!」
「何言ってるの。アタシだって、そうだよ」
 抱きしめて眠るだけで幸せになれる。そんな存在がそばに居てくれる。
 こんな毎日が、これからもずっと、続きますように。

※SS担当:染

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