イラストSS

　くらめくほどの奇跡を浪費して、君とだべっている。静かな夜が、君という存在に歓喜している。今宵、すこしだけ先取りした景色。
「君さ、すこし無用心じゃないかな。俺の所へ来るなんて」
　ああだこうだと理由をつけて、君は君らしくいようとする。俺はそのどれもをかわいいと思ってしまう。俺は君の声が好きだし、得体のしれないところも大好きだ。君が語れば語るほど好感度爆あがりしてるって、気づいているのかいないのか。恋する男のバカさ加減、なめるなよ？
「手、貸して。左手」
　ほらそんなふうになんの疑いもなく手を差し出すんじゃないよ『L』。まったく君は無防備だなあ。殴られるのに慣れてるからって自衛を捨てちゃうのはどうかと思う。まあ、君からしたら、余計なお世話もいいところだろうね。
　どうせすぐ消える戯れ。俺の存在もセピアに染まっていったらいいなあなんて、なんて言うと思った？
絶対忘れてほしくないし、事あるごとに思い出してほしいし、君の心に棘として残りたいし、百年は引きずってほしい。
　キスするふりをして、俺は君の左手へ噛みつく。左の薬指、その根本へ。歯型が指輪みたいに残る。なんのつもりだと君が問うから、俺は笑うしかない。
「一生わからなくていいよ」

　※SS担当者：赤白みどり