イラストSS

　幻想のどこか、キィンと耳鳴りがするほど冷えた静かな森の湖畔だった。
　木々の間を通る風の音、ひそひそと内緒話を交わす鳥達。
　その下で息を潜めて眠る動物達に、静かに呼吸をする虫達の気配。
　蒼白く静謐な世界だった。
　その静謐な世界で、湖の上を一艘、手漕ぎボートが進む。
　ボートのパドルが湖の水を掻き分ける度、ギイギイと軋む音に水音が控え目に重なる。
　ギイギイ、パシャ、パシャン。ギイギイ、パシャ、パシャン。
　だいたい湖の中央へ至った頃か、ボートがパドルを引いて停まる。
　水面が強く揺れて、やがて穏やかな水面へ還ってゆく。
　操舵手を勤めた茶髪の女、ウルズが向かいに座っていた白髪の女、フラーゴラへ片側を譲る。
「ぐえ……横並びはちょっと狭いっすね…。そうだ！　先輩、あたしの上に寝転ぶっす」
「あわわ、すごいもふもふされてるぅ。わぁ…ウルズさん。星空綺麗だねえ……！」
　言うが早いかウルズは華奢なフラーゴラを自分の体の上に乗せると、そのまま仰向けに横たわる。
　ふわふわの髪の毛と耳尻尾を堪能しつつ見上げた夜空は、星が溢れんばかりの世界だった。
　悠然と輝く月と咲き誇る星々を二人は暫く、無言のまま堪能した。

　※SS担当：桜蝶京嵐