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今世界が滅んでも。私達だけね
今世界が滅んでも。私達だけね
イラストSS
もしも世界が終焉を迎えたなら、こんな風景が遺るのだろうか。崩れ落ちた天井は髑髏の眼孔。剥き出しの金属の骨と共に積もった埃と静寂は、何人も拒まない扉が軋んだ途端に舞い上がった。
カツン、と響いた靴音が月をスポットライトに変え、影を伸ばした瓦礫は観客になる。ひび割れたダンスホールへと誘う手に委ねたのは、身か心か。逡巡の余白も焦がれるほどの熱を孕んだ。
1、2、3、4——重なるステップは大胆に、時々デタラメに。どんな型にも嵌まらず、それを指摘する野暮な審査員も後ろ髪引く未練も伴奏ごと置き去りに。
「楽しいねイーリン! 今、世界に私達だけだ!!」
「そうね美咲。今なら世界が終わっても誰も気づかないわ!」
笑み交わすふたりも、翻っては縺れるドレスの赤と黒も、我が世の春と咲き誇る。この瞬間だけは思うままに身を寄せて、揺れて、謳う。花のように。少女のように。
失くした時間。駆け抜けた時間。残された時間。床へと刻むヒールより正確な秒針は刻々と。手を離せば、きっと、退場する先は別々なのだとしても——最期まで鳴り響かせる。その無慈悲さすら、スパイスにして。
※SS担当:氷雀