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ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤの鳴蚊嶋五連による関係者2人+PCピンナップクリスマス2022
イラストSS
酒はいいものだ。ヴァレーリヤは心からそう思う。
初めてそう思ったのは、いつの日だっただろうか。
陽気な音楽と雑多な話し声。
鉄帝では珍しくない弦楽器でケルト調の曲が演奏され、木のカップを持った男女が陽気な様子で乾杯をしている。
そんな風景が暖炉のぱちぱちとした音に混じって心地よいノイズとなっていた。
「ぷはあ!」
カップの中の酒を飲み干し、ヴァレーリヤはテーブルに空のカップを叩くように置く。
「相変わらずよく飲むな、同志ヴァレーリヤ?」
呆れたような、からかうよな、あるいは親しみを込めたような口調でそう呼びかけてきたのは褐色の肌に白髪の男であった。
彼の服装はヴァレーリヤ同様の僧服。クラースナヤ・ズヴェズダーのものだ。
「あらムラト! あなたもここで飲んでましたのね!」
かんぱーい! と陽気に叫びながらカップを突き出すヴァレーリヤ。さっき空っぽになったばかりだというのに、もう新しく酒が注がれている。
背丈の短さも相まってまるで子供が酒をあおっているかのように見えてしまうが、彼女がれっきとした成人であることはこの酒場の誰もが知っている。
同じように酒をちびちびやっていた大人たちもまるで感心を示さないほどに、ここでは自然な光景なのである。
「折角ですから、一緒に飲みましょう。ほら、こっちですわ」
ヴァレーリヤは手招きしながら自分のテーブルを指し示した。
ムラトは苦笑し、同じテーブルにつく。
「じゃあ、ご相伴にあずかるとしようか」
テーブルにあるのは塩漬けした魚。それになんともいえない渇いた何かだ。が、それで結構である。
ムラトもヴァレーリヤも、酒さえ飲めればシャイネンナハトは陽気に過ごせるとばかりに気にせずカップに口をつけている。
「そういえば、こうして一緒に飲むのは久しぶりですわね?」
「かもしれないな。別の仕事で離れている事も多かったからなあ」
等と雑談を交わし合う二人。
次第に話題はそれぞれの身の上話……というか、主にムラトの昔話にシフトしていった。
「アミナは昔からそそっかしくてなあ。あれは背丈が儂の腰にも届かん頃だったか。片想いしておった子のために菓子を焼いたのだが……」
遠い昔を懐かしむように虚空を見つめる。ムラトの顔は赤らみ、酒が回っているのは明らかだ。
「うっかり転んで粉々にしてベソをかいて……」
「わああああ、なんて話をしているんですか!」
と、その時。テーブルにとべっとアミナが突っ込んできた。文字通りに。
「止めて下さい! 今すぐ止めて下さい!」
両手でばんばんとテーブルを叩くアミナ。一方でヴァレーリヤは目をキラキラさせた。
「アミナも可愛いところありますのねえ。もっと聞かせて下さいまし!」
「ヴァリューシャ先輩も煽らないで下さい!」
それはしんしんと雪の降り積もる、シャイネンナハトの夜のこと。
楽しかった、日々のこと。
※SS担当:黒筆墨汁