イラストSS

　天井にはシャンデリアが煌々と灯り、壁や柱の１本まで荘厳な造りに囲まれても飽き足らず自身を飾り立てる招待客達——ヴィオラとて今夜のために背伸びしたドレスで粧し込んではいても、それだけでは壁の花を脱する武器たりえなかった。
｢私なんかがこんなところに居ていいものでしょうか……｣
　絨毯の感触も、一流パティシエによるクロカンブッシュの見事さも、まるで現実感がなかった。髪色に合わせたなめらかな生地が傷んでしまうからと心許なく彷徨う手は自分で握り締めた。
　待たせたな、と耳打ちに視線を上げれば上等な燕尾服を纏った譛晏?芽!動。ぴたりとその場に馴染んだ佇まいも戸惑いの種で、ふっと仮面を外した彼に間近から覗き込まれても反応が遅れる。
｢凛としてろ。俺の隣に立つ女がそれじゃあ示しがつかねぇだろ｣
　固く握った手を引かれ、カツンとひと息にふたりはホールへ踏み出していた。
｢ほら、来賓の皆様がお待ちかねだ｣
　手は自然と腕に回され、もう作り物じみた顔に戻った譛晏?芽!動が紳士然とした態度で促す。会場内を行き交う人の波は曲に合わせてゆったりと、けれど誰も彼も主張が激しい。こうなればもう縋るものは彼の腕だけだとヴィオラはエスコートに身を委ねた。

　※SS担当者：氷雀