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紲 董馬の茶月こまによるおまけイラスト
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亜竜種の大家族、紲一家は家族のほとんどが一堂に会しシャイネンナハトの大騒ぎ。
というのも、一族の人数が非常に多いことから依頼に出ていたりそもそもの連絡が取れなかったりと全員で集まることは殆どない。冠婚葬祭くらいのものだ。なので、この人数が集まったことのほうが喜ばしいくらい。
外に降る雪も溶けてしまいそうなほど仲睦まじい夫婦である雨軒と蝋梅は、嬉しそうにはしゃぐ子供たちに嬉しそうに目を細めていた。
テーブルの上に並んだ料理の数々は蝋梅の手作り。子供たちに喜んでもらわんと腕をふるったのである。彼女にとっては子供に嫌われずある方法のひとつでしかないのだが、結果的に幸をなしている。
「蝋梅、今年も協力してくれてありがとう」
「そんな……雨軒さんが居てくれたからよ。今年も子供たちの笑顔が見れて、私も嬉しいもの」
ふふ、と笑った蝋梅。エプロンにはその苦労が滲むことを雨軒は知っている。
「すいやせん、蝋梅姉さん。少し兄者を借りて良いですかい?」
「あら建峰ちゃん。勿論よ、夫をよろしくね」
「じゃあお母さんはうちと行こ~。うち、ケーキはやく食べたいんだよね」
「うふふ、解ったわ。お母さんに任せて!」
小衣に連れられてキッチンへと進む蝋梅を見送りながら、建峰はこほんと咳払いを一つ。
「兄者。今年も用意は済んでます、安心していいですぜ」
「ふむ。ありがとう、建峰。いつも助かるね」
「何、招待して貰ってるんで、これくらいは俺にもさせてくだせえや」
建峰と雨軒は毎年子供たち全員にプレゼントを用意している。パーティの最後に用意しておくのだが、いつもバレないように保管しておくのが大変なのだ。何せこの人数の大家族なのだから。
そして毎年、建峰に協力してもらい、蝋梅へのプレゼントを隠しておくのだ。子供たちのプレゼントを飼うことは忘れないのに、自分がプレゼントを貰うことは計算にもないのだろう。毎年驚かせるのが楽しみなのだ。
そんな仲の良い両親と叔父を横目に、母親の手料理にはしゃぐ子供たちの姿があった。
「うむ、旨い! フラジャイルが居ないのが勿体ないくらいだ。俺が全部食べてしまいたい!」
「そんなことしたら姉さんが拗ねちゃいます。でも、ちょっとくらいならバレないかも?」
「董馬もそう思うか。よし、少しだけ……少しだけ、食べてしまおう!」
長男である暁蕾と、マイペースな董馬の悪巧みは止まらず。今不在の暁蕾の双子の片割れ・フラジャイルの分まで喰らわんとする勢いは止まらない。
「ちょっとぉ、アンタちゃんと飲んでる? 今にも寝そうな勢いじゃないの、若いのに負けてるんじゃない?」
「そんなことない筈なんだけどなあ……冥穣さんは若々しくて元気だねえ」
「ヤダちょっと酒臭い……アンタ出来上がってるわね?!」
「ふふー、どうでしょう……酒鏡さんにとって酒は水も同じなのさー……」
「それ肝臓悪くして死ぬやつじゃない……? アタシより若い子の葬式なんざ出たくないわ、長生きなさい!」
だけど若い子の楽しみを取るほど鬼でもない。冥穣が酒瓶を手渡すと、酒鏡は嬉しそうに微笑んで一気飲みした。あ、あかんやつ。
「熾煇くん、こんなとこで食べてたの?」
「へへっ、あいつらに取られたら嫌だからな!」
「取るなんてことはないと思うけどなあ。ほら、あんな感じだし」
「でも食事の恨みは強いんだぞ。俺知ってる!」
「ふふ、そうだね」
ほんのり赤らんだ顔で語りかける六合は、熾煇を見ながらワイングラスを揺らす。
「皆! お待ちかねのお母さんのケーキの御出座しだよ!」
小衣の声が室内に響く。おお、というざわめきとともに大きなホールケーキがいくつか入ってくる。というのも、今回揃った一族はやや男性より。よく食べる成長期の子供たちも居るということで、多めかつ大きめに作ったのだという。つくづく凄いお母さんである。
「あ、うちそこのいちごとチョコプレート乗ってる所が良い。サンタさんのマジパンは要らないから兄さんたちにあげるけど」
ひょいひょいと自分の分だけを切り分けた小衣は、うんうんと頷くと、ナイフを建峰に押し付けて。
「俺か?!」
「だって叔父さん、皆よりこういうの得意そうだから……」
「うーむ、判らんが。やれるだけやらせて頂きやしょう」
大きな体躯の建峰が小さな包丁を持っているのはなんだか少しだけ笑えてしまう。
年に一度の大騒ぎ。ケーキを食べるチャンスは家族の人数分だけあるけれど、プレゼントを贈りあって、ツリーを飾って。戦わない夜に感謝して、またこうやって一年が過ぎていくことに感謝するのは、今日この夜しかない。
どうしても外せない依頼や余裕のない家族を除いて。戦いで来ることが出来ない家族の安否を思いながら食べるご飯は、少しだけ胸が痛いから。
輝かんばかりのこの夜に。紲一家のパーティーは、まだまだ終わりそうにない。
※SS担当者:染