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ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤの鹿野慈によるおまけイラスト
イラストSS
●Be prepared, and you’ll have no regrets.
空気は寒けき馨。雪沓を履いた人々の足音と凍った汽笛を遠く聴きながら、軈て来る本格的な冬の到来に向けてふたりと一匹の冬支度。
塩漬け肉は丹念に仕込めば長持ちするし、矢張り食卓に肉が有るか否かで気分も左右され易い。シンプルに岩塩を擦り込んだだけのものもハムよりも濃厚になり、脂はクリーミィだ。ハーブも共に漬ければ味は複雑さを増す。
「温かいシチューが恋しゅうなりますわ!」
「嗚呼、良いね。ポトフも」
「命を戴くからには鳴き声以外は全て、が基本ですわね。屑肉はよーく刻んで……」
ですわ
「ハンバーグ !!」
かなぁ
「あ、駄目だよトラコフスカヤちゃん。キッチンには登っちゃいけない約束だろう?」
「あら、美味しそうな匂いがしたからかしら。ほーらほら、美味しいお肉ですわよー!」
若草色の眸に悪戯心を宿らせたヴァレーリヤが取れそうで取れない絶妙な位置加減でスライスした肉を揺すれば、トラコフスカヤちゃんが『お肉!お肉!食べたいですわ〜〜!』と必死になり跳ねた。
其の可愛くいとおしい遣り取りに『其の儘だと塩っぱいと想うけどなぁ』なんてマリアは苦笑って、然しついつい甘やかしてしまうものだから、後で湯掻いてあげようと心に決めて。
「ねえ、ヴァリューシャ、少し休憩をしようか」
「ですわねえ、大分樽も重くなりましたわ! 嗚呼マリィ、エプロンは外しても平気ですわよ!」
「……あはは、『折角結んで貰ったのに勿体無い!』って思っていたの、バレちゃったかい?」
「ええ、そんな気がしましたの、亦結んで差し上げますからね!」
「有難う、じゃあ、少しだけ此れを開けてしまおうか。温葡萄酒にすれば屹度温まるよ!」
「ふふ、ではひと先早い乾杯と致しましょうか。輝かんばかりの――」
「――此の夜に、ってね!」
※SS担当者:しらね葵